解ける螺旋
「……言っとくけど、友好的でも好きで名前で呼んでる訳でもない。
奈月から聞いてるだろうけど、俺、あんたの妹と付き合ってるの。
何も知らなければ、あんたは真美の兄貴ってだけだし。
避けてたら俺だけが一方的に嫌ってるみたいで、俺が嫌なヤツじゃん」


本気で溜め息をつかれた。
妙にこめかみがピクピクするのを感じた。
俺も個人的に結城は好きではないから、今後はお互い様の関係が築けそうでホッとする。


そう、下手に出るのは今だけだ。


「健太郎、お願いだから突っ掛からないで。
もう愁夜さんが世界に干渉する事もないし、それすら『無かった世界』なんだから。
大人になろうよ」


穏やかに険悪な雰囲気の男二人に、奈月は呆れ顔で言葉を挟んだ。


「いや、良くないだろ。
奈月はなんでそんなに他人事なんだよ。元はと言えばお前の敵だぞ!?
これから時間が動くったって、結局愁夜の思惑通りの未来だろ?
踊らされてるだけじゃないか」

「でも、もう本当にこれで終わるんだし」

「……よく言うよ。
つい昨日までは泣きそうな顔してウジウジしてたくせに」

「……」


結城が腕組みしてニヤリと笑うと、今度は奈月がムッとして黙り込んだ。
反撃の向きが奈月に変わったのか、結城は文句を言った割には、少し身を屈めて俺を手招きして耳打ちして来る。


「何」

「先生、奈月のヤツな。
一人で『私は大人です』って顔してるけど、今年に入ってから迷惑な位情緒不安定だったんだよ。
あれから五年経ったけど、先生がどのタイミングで戻って来るかわからないし、。
それこそ戻って来るかもわからないし。
戻って来ても自分を覚えてなかったらどうしようって。
ま、俺としては戻って来るって信じてた事も意味不明だけど。
……戻って来たって事は、これが先生の望み通りの未来って事か」
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