解ける螺旋
「結城」


話は終わりだという合図に、俺はその名前を呼んでしまう。
だけど。


「奈月は頼んだよ」


それだけ言って、結城は俺に背を向けた。


「待てよ、結城!」


呼び止めずにはいられなかった。


今までずっと黙っていたなら。


――君の真美への気持ちは偽物なのか。


その言葉を浴びせ掛けて、辛うじて言葉を飲み込んだ。


そんな事、聞ける訳がない。
結城が自分の想いを殺して真美に幸せを与えてくれていた事は、消せない事実なんだから。
俺に出来るのは感謝だけで、少しでも責める様な言葉を吐く訳にいかない。


思わず立ち上がったまま、離れて行く結城の腕を放す事も出来ず、俺は必死に言葉を殺す。


「俺は……っ」


結城が俺を静かに振り返る。
そして、穏やかに笑う。
その笑顔が、大嫌いなはずの俺に対して、安心しろと言っている様な気がして打ちのめされた。


「なんだよ。やっぱり俺に真美は勿体無い?」

「……いや」


結城の顔を、真っ直ぐ見ている事が出来ない。


「君にじゃなきゃ、やれない」

「当たり前だよ」


結城は口の端で笑うと、俺の手を掴んで自分から離した。
そして今度こそ、リビングの出口に向かう。
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