解ける螺旋
立ち尽くしたまま足元に視線を下ろして、結城が部屋を出て行く音を聞いていた。
玄関のドアが閉まった音を最後に、俺は堪えられずに頭を抱えた。


「愁夜さん」


奈月が俺の手を引いて見上げていた。
その瞳があまりに優しくて、俺は小さく首を横に振った。


「俺は、何て事をしたんだ……」


絞り出した一言に、奈月は黙り込んだ。
そして。
俺の手を引いて座らせると、言い含める様にゆっくり声を出した。


「……安心して。
健太郎はね。
何とも思ってない女の子に期待させる様な態度が取れる程、器用な男じゃないから」

「……っ!」


その言葉に、思わず顔を上げた。
隣に座っている奈月は、俺に視線を合わせてニッコリ笑う。


「そんな不器用な健太郎が、愛していない人と五年も付き合ったり出来ないから」


それを聞いて、俺は奈月の腕を掴んだ。
引き寄せて瞳を覗き込んで、その肩を揺さぶる。


「奈月、なんで止めなかった?」


俺に揺さぶられても、奈月の視線は揺るがない。


「君はわかってた。
結城の気持ちが、自分にあるって知ってたんだろ!?」

「……」


困った様に顔を歪めて、それでも奈月は俺を見つめている。
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