解ける螺旋
奈月はふふっと笑うと、まるで待ちかねたとでも言う様に、俺の頬に自分の頬を擦り寄せて来る。
くすぐったい。
だけどやっぱり温かい。


「……相沢夫妻になんて言って挨拶しろって言うんだ。
真美の命の恩人なのに。
結城との婚約を破談にして、奈月を奪う様な恩知らずになりさがって」


男らしくないとわかっていながら、愚痴りたくもなった。
本当に俺は、俺の望んだ未来がこんな事になるなんて予想していなかったんだから。


「命の恩人は、お互い様だって言えばいい」

「言えるもんなら言ってみろ」


溜め息をつくと、奈月が俺の頬を両手で挟んで顔を覗き込んで来る。


「反対されたりしたら、駆け落ちしようね」

「……今時?」


やっぱりこの未来で、俺は奈月に勝てない。
戻って来てからずっと、主導権は奈月にある、様な気がするのはもう気のせいじゃない。


戻って来て28歳から未来を進む事になった途端、結婚の約束を迫られる事態になるなんて。
腹を括るしかない。


俺はきっとどの世界の未来でも、奈月と生きるからには彼女に頭が上がらないんだ。
瞳を伏せて近付いて来る奈月の唇を、黙って受け止めた。
だけどそれも俺の意志だって伝える為に、奈月の腰に腕を回して。
そっと肩を押してわずかな抵抗を摘み取って、ソファに身体を沈め込んだ。
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