解ける螺旋
――出来るなら。


誘拐事件の後、薬を開発する研究を続けてくれてありがとうと伝えたい。
俺が奈月と出会う運命を生み出してくれた事にも、感謝を。


奈月を救い出す事を条件にして、一方的に押し付けた約束で、俺は彼らの研究の方向を縛ってしまった。


はっきり言う事は出来ないけれど。
俺が本当に感謝している事は伝わったらいいな、と思う。


「……幸せ、か」


空を目に映したまま、俺は無意識に呟いていた。


この先はわからない。
俺にだって未知の世界なんだから。
だけど、俺は今この瞬間に、進む道を自分で選んで、この先を変えて行く事が出来る。


辿り着く未来を予想して。
奈月が一緒なら、輝くばかりに眩しい未来が待っていると、俺は根拠の無い予想をする。


いや、予想じゃない。
それは俺の願いだ。
そう、本当はそうやって、たった一度の人生を自分色に染めていかなきゃいけない。


普通の人間の人生に、多世界なんかある訳がなんだから――


『もしも』の世界は、あくまでも『もしも』
たくさんの分岐点に迷うことがあっても、やり直しなんか、あってはいけない。


そんな事を考えながら自分に苦笑して、俺は慌ただしい昼間の病院の廊下をゆっくり歩き出した。
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