解ける螺旋
「あ、そ、そう言えば。
先生も昨夜のパーティーにいらしてましたよね。
それなら昨日教えてくれても良かったのに」

「え？」


私の脈絡のない言葉に、樫本先生が顔を上げた。
恍けられてる様な気がして、私は何故か言い募ってしまう。


「昨夜。先生、会場のホテルの庭園に居たでしょう？
声を掛けたのに無視されたから。
私の事を覚えてなかったのかな、って思って」

「……庭園？　……ああ、そう言う事か」


先生の呟いた言葉に腑に落ちない気分を感じながら、だけど先生の笑顔に一蹴された。


「着飾った相沢さんがあんまり綺麗で、僕の知ってる人じゃないって思ったからかな。
だけど、無視されたなんて思ってたなら、近付いて確かめる位はした方が良かった」

「え」


あっさりとそんな事を言われて、意識しなくても頬が熱くなった。
そんな私の反応を見て、先生は面白そうに笑った。


「次の機会があれば、立ち止まる様に自分の肝に銘じておくよ。
……でも残念。もし僕が気付いていれば、その後相沢さんをエスコート出来たのかな」

「え！？　……あの……」

「僕を呼んでくれたって事は、相沢さんは一人だったんでしょう？」

「……」


まるで試されてるみたいな言葉に、私は返事に困った。


いつもパーティーに出席する時はいつも健太郎が一緒だったし、昨夜みたいに健太郎と離れて一人になったのは初めてだった。
だから『もし』と問われても、私がどうしたかを答える事が出来ない。
< 46 / 301 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop