主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
これで主さまは朝ゆっくりと眠ることができるようになり…
だがひとつ気がかりがあった。
…息吹は人の子と同じように夜に眠らせる。
そして朝には起きて、山姫が抱っこして庭を歩いたり、雪男が陽のあたらない室内で“いやだ”と言いつつなかなかの世話っぷりを見せて息吹をあやしていた。
…ということは…
主さまは常に息吹とすれ違いになっていた。
主さまは逆に夜に起きて百鬼夜行を伴って行進し、朝に帰ってきて夜まで眠る。
今や息吹に触れられるのはほんのわずかな時間の間だけ。
――とうとうそんな生活に耐えられなくなった意外と子煩悩な主さまは、雪男の腕から息吹を取り上げた。
「主さま?まだ朝ですよ?」
「うるさい。これからは俺の傍に置く。山姫、乳離れはもう済みそうなんだろう?」
特に妖怪の女たちから愛されてすくすくと育った息吹は、毎日違う産着を着せられて着飾られて、そしてはいはいをしている姿を見て思わず主さまの口元が緩む。
「食えるようになるのはもう少しの我慢だな」
「16年ほどはかかりますよ。我々とは違って人の赤ん坊とはゆっくり育つのですよ」
「あと16年だと?そんなに我慢はできない。よし、今夜人間の女を食う。俺の部屋に誰も近づけるな」
――主さまは数十年、数百年の単位で人の女を食う。
以前女を食ったのは20年前程のことだ。
「主さま、本当に息吹を食うんですか?」
すっかり父性が目覚めてしまった色男の雪男が眉を潜めると、主さまはせせら笑いながら息吹を抱っこして指を握らせた。
「元々人は俺たちの食いものだろう?何を躊躇する必要がある?お前の母だって人の男を誑かして、そしてお前が生まれたんじゃないか」
…そう、雪男は半妖だ。
だが特に妖としての資質が強く、人との生活を送ることはできなかった。
「そ、そうですけど」
「とにかく、息吹は俺の傍に置く。その代り俺が寝ている時は絶対に起こすな」
「はい」
また息吹を主さまに独占されてしまった山姫たちは結局逆らえずに従って、そして息吹が夜に眠るまでの夜半に思いきり撫で回そうと決心して頭を下げた。
だがひとつ気がかりがあった。
…息吹は人の子と同じように夜に眠らせる。
そして朝には起きて、山姫が抱っこして庭を歩いたり、雪男が陽のあたらない室内で“いやだ”と言いつつなかなかの世話っぷりを見せて息吹をあやしていた。
…ということは…
主さまは常に息吹とすれ違いになっていた。
主さまは逆に夜に起きて百鬼夜行を伴って行進し、朝に帰ってきて夜まで眠る。
今や息吹に触れられるのはほんのわずかな時間の間だけ。
――とうとうそんな生活に耐えられなくなった意外と子煩悩な主さまは、雪男の腕から息吹を取り上げた。
「主さま?まだ朝ですよ?」
「うるさい。これからは俺の傍に置く。山姫、乳離れはもう済みそうなんだろう?」
特に妖怪の女たちから愛されてすくすくと育った息吹は、毎日違う産着を着せられて着飾られて、そしてはいはいをしている姿を見て思わず主さまの口元が緩む。
「食えるようになるのはもう少しの我慢だな」
「16年ほどはかかりますよ。我々とは違って人の赤ん坊とはゆっくり育つのですよ」
「あと16年だと?そんなに我慢はできない。よし、今夜人間の女を食う。俺の部屋に誰も近づけるな」
――主さまは数十年、数百年の単位で人の女を食う。
以前女を食ったのは20年前程のことだ。
「主さま、本当に息吹を食うんですか?」
すっかり父性が目覚めてしまった色男の雪男が眉を潜めると、主さまはせせら笑いながら息吹を抱っこして指を握らせた。
「元々人は俺たちの食いものだろう?何を躊躇する必要がある?お前の母だって人の男を誑かして、そしてお前が生まれたんじゃないか」
…そう、雪男は半妖だ。
だが特に妖としての資質が強く、人との生活を送ることはできなかった。
「そ、そうですけど」
「とにかく、息吹は俺の傍に置く。その代り俺が寝ている時は絶対に起こすな」
「はい」
また息吹を主さまに独占されてしまった山姫たちは結局逆らえずに従って、そして息吹が夜に眠るまでの夜半に思いきり撫で回そうと決心して頭を下げた。