主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
揺れる牛車の中で目が覚めた。

晴明に膝枕をされていた息吹は、会ったことのない父に膝枕をされている気分になって、扇子で風を送ってくれていた晴明の手を握った。


「ああ、起きたかい?」


「あんまり眠れなかったからお昼寝しちゃったみたい。主さま怒ってなかった?」


「いいや全然。さあ着いたよ」


中へ入るとすでに式神が夕餉の準備を終えていて、すまし汁を口に運びながら目下の心配事を晴明に問うた。


「父様…あれから御所からの呼び出しは…」


「ああ、昼間に何か来たけれど迷ったみたいでね、すごすご帰って行ったよ」


「ねえ父様…宮仕えが嫌いなのにどうしてお勤めしていたの?」


――そういえば妖狐の母のことを話していなかったな、と思い、酒を口に運びながら何の気なしに答えた。



「御所の宝庫に私の母が居るんだよ」


「…え?」


「皮を剥がされてね、敷物にでもするつもりだったか…。私は母を取り戻したいんだ。どんな姿になっても、取り戻して弔ってやりたいんだよ」


「父様…!」



感極まった息吹が晴明の腕に抱き着き、落ち着くまで背中を撫でてやりながら小さく笑った。


「私もまだまだ子供だろう?息吹、そなたを私の母にも見せてやりたいんだ。だからまた近いうちに御所へ行くよ。だから息吹、私に何か起きた場合は…」


「そんな話聴きたくありません!」


――晴明は危険を冒して御所へ殴り込みに行くつもりなのだ。

それはとても危険なことで、晴明は帰ってこない時のことを息吹に話そうとしていて、息吹はそれを拒んだ。


「息吹、聴きなさい」


「いや!父様、父様が居なくなった私、どうすれば…っ」


「準備にはもうしばらく時間がかかる。その時までに私の話を聞く準備をしておくんだよ」


「そんな……」


息吹の少し下がった黒瞳はみるみる潤み、6年間慕ってきた晴明を失うかもしれないことに悪寒を覚えて腕にひっついて離れなかった。


「ふふ、こんな姿を十六夜に見られてはまずいな、殺されてしまう」


「主さまにお願いしてみます。父様、私もお手伝いします!」


…今度は晴明が唖然とする番だった。
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