主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「主しゃまー」
それから10年後。
10歳になった息吹は、人間の子供では飛び抜けて可愛らしく、赤ん坊の頃から見守ってきた百鬼たちは皆が口を揃えて〝俺が育てたんだ”と言い張り、そして息吹は毎日主さまの後ろをついて回って離れなかった。
「主しゃまー」
「…うるさい、まだ眠い」
「主しゃま、遊んでー」
うつ伏せになって猛攻を拒むと、なんだか髪を触られている感触がして、顔を上げずに訊ねた。
「…何をしている」
「髪、結んであげるー」
乱暴な手つきで櫛で髪を梳きながら、色とりどりの髪紐の中から今日は赤い紐を選択して、もたもたとさらさらの髪をまとめると、固結びをした。
「できた!」
「できてない。やり直し」
「でも主しゃま、これ…取れない…」
固結びをしたので当たり前なのだが、まだ色々覚えたての息吹には難しく、仕方なく朝っぱらから起こされて爪を尖らせると紐を切った。
「主しゃま、おはよー。今日は何の日?」
「何の日だ?」
聞いたのに逆に聞き返されて息吹が可憐な唇を尖らせると、それには襖を隔てた向こう側から山姫が答えた。
「息吹が幽玄町に来た日ですよ」
「母しゃま、おはよー」
山姫を“母しゃま”と呼んで慕って、ここまで息吹を育てたのは実質山姫の貢献だ。
…だが主さまだって負けてはいない。
乳もやったし襁褓も替えたし、風呂にだって入れてやったし、毎夜添い寝もしてやっている。
そして夜は百鬼夜行。
身体の線は細いが意外と強靭な身体の持ち主だった。
「それで?」
「赤と青の所に行こ。遊んでほしいの」
山姫の膝に座っている息吹が髪を梳かしてもらい、背中半ばまである長い髪を主さまとお揃いの赤い紐で束ねてもらうと、すぐ近くに忍び寄っていた猫又の背に跨った。
「早く行こうよ主しゃまー」
「昼は駄目だ。俺は人に見られたくないんだ」
「なんでー」
「なんででも」
「息吹、母様がついて行ってあげるよ」
結局山姫が連れて行くことになり、主さまは二度寝を始めた。
それから10年後。
10歳になった息吹は、人間の子供では飛び抜けて可愛らしく、赤ん坊の頃から見守ってきた百鬼たちは皆が口を揃えて〝俺が育てたんだ”と言い張り、そして息吹は毎日主さまの後ろをついて回って離れなかった。
「主しゃまー」
「…うるさい、まだ眠い」
「主しゃま、遊んでー」
うつ伏せになって猛攻を拒むと、なんだか髪を触られている感触がして、顔を上げずに訊ねた。
「…何をしている」
「髪、結んであげるー」
乱暴な手つきで櫛で髪を梳きながら、色とりどりの髪紐の中から今日は赤い紐を選択して、もたもたとさらさらの髪をまとめると、固結びをした。
「できた!」
「できてない。やり直し」
「でも主しゃま、これ…取れない…」
固結びをしたので当たり前なのだが、まだ色々覚えたての息吹には難しく、仕方なく朝っぱらから起こされて爪を尖らせると紐を切った。
「主しゃま、おはよー。今日は何の日?」
「何の日だ?」
聞いたのに逆に聞き返されて息吹が可憐な唇を尖らせると、それには襖を隔てた向こう側から山姫が答えた。
「息吹が幽玄町に来た日ですよ」
「母しゃま、おはよー」
山姫を“母しゃま”と呼んで慕って、ここまで息吹を育てたのは実質山姫の貢献だ。
…だが主さまだって負けてはいない。
乳もやったし襁褓も替えたし、風呂にだって入れてやったし、毎夜添い寝もしてやっている。
そして夜は百鬼夜行。
身体の線は細いが意外と強靭な身体の持ち主だった。
「それで?」
「赤と青の所に行こ。遊んでほしいの」
山姫の膝に座っている息吹が髪を梳かしてもらい、背中半ばまである長い髪を主さまとお揃いの赤い紐で束ねてもらうと、すぐ近くに忍び寄っていた猫又の背に跨った。
「早く行こうよ主しゃまー」
「昼は駄目だ。俺は人に見られたくないんだ」
「なんでー」
「なんででも」
「息吹、母様がついて行ってあげるよ」
結局山姫が連れて行くことになり、主さまは二度寝を始めた。