主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
妹の葛の葉に似ていると気付いた瞬間、息吹のことを妹のように思えた。

妹は可愛らしいというよりも綺麗だったが、息吹は可愛らしい。

共通点は少ないかもしれないが、もしかしたら晴明もこうして息吹に葛の葉の面影を見ているのかもしれない。


「あれ…?銀さん…もしかして寝てないの?」


「んん?ああ、考え事をしていたらもう朝になってしまっていたか」


まだ髪も跳ね、起き立ての息吹の瞳がかっと見開き、押入れを開けると中から掛け布団を引っ張り出し、銀の肩を押して無理矢理横にさせた。


「すぐご飯作るからそれまで寝ててっ。寝なきゃ駄目だよっ」


返事を待たずに急いで台所へ消えて行った息吹と入れ替わりに、きっちり身支度を整えた晴明が入ってきた。


「寝てないのか。ふふふ、今日は十六夜も寝てはいないだろうな、会うのが楽しみで仕方がない」


「お前は相変わらず十六夜をいじめて楽しんでいるのか。確かにそうだろうな、よし、俺もあいつをからかいに行くぞ」


――その晴明の予想は見事に当たり、冷静を装いながらいつも通り百鬼夜行に出て、いつも通り屋敷に帰ってきた主さまは…自室内でうろうろと行ったり来たりを繰り返していた。


今日は誕生日だ。

結局息吹から欲しいものを聞き出せず、しかも息吹の告白を聴いてしまったのだ。


「あいつは…今日もここへ来るのか」


来なければ来ないで気になり、会いに行ってしまうだろう。

それに百鬼の連中はそれぞれが息吹が喜びそうな物を持ち寄り、主さまと同じようにそわそわしている。

山姫と雪女は早朝から豪華な料理を作っては戸棚に隠しているし、残すは…


自分の告白だけ、だ。


「俺は息吹にどう告白するつもりだ…?」


自分で自分がわからない。

恋心を抱いたのははじめてで、晴明の言うように“女から告白させるなど腰抜けのすること”というのは間違ってはいない。


「告白したとして…どうする…?」


息吹を嫁に。


心の内がぼそりと呟き、主さまは顔を真っ赤にしながら長い髪をかき上げた。


「…短いとわかっていても…俺は…」


告白しよう。

そして、“俺の嫁に”と言うんだ。
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