主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
もし晴明に銀と同じ耳と尻尾があったら?

それを想像するとたまらなくなった息吹は晴明の頭の上を触りまくり、銀の尻尾も触りまくった。


「そなたは幼き頃より猫又や鵺と遊んでいた。獣系の妖が好きなのはわかるが銀は人型故、程々にするのだよ」


「はいっ。銀さん、気が済むまで泊まって行ってね。私のお話相手になってくれるととっても嬉しい」


「そうだな、ではそうさせてもらおうか。それに息吹、お前は花が好きだと聞いたからこれをやろう」


ずっと右手は握りこまれていたのだが、息吹の前で手を開くと、そこには何かの花の種が数粒乗っていた。

息吹はそれを手に取り、しげしげと眺めると首を傾け、きょとんとした。


「これはなあに?」


「見ての通り花の種だが、不思議な花が咲く。真っ赤でふわふわしていて、良い香りがする。花弁を風呂に入れると肌に香りが移り、しかも滑らかになるそうだ」


「わあ…そんな花があるのっ?銀さんありがとう!嬉しいっ」


嬉しさの頂点に達した息吹が銀の腹の上に乗ってゆさゆさと揺さぶると、銀は息吹の腰を手で支えながらにやにやと笑い、晴明の眉根を寄せさせた。


「銀…私を怒らせたいのか?」


「いやいや、これは俺が望んだんじゃないぞ。しかし女に馬乗りになられたのははじめてだ。乗る方なら得意なんだが」


「え?銀さん、それってどういう…」


「さあ息吹、もう遅いから寝なさい。父様が子守唄を唄ってやろうか」


「ほんとっ?父様のお歌、好き!」


銀は息吹に手を振り、息吹の手の中の種を指した。


「撒けば数日ですぐに花が咲く。その時は花弁を風呂に散らせて一緒に…」


「銀」


「おっと」


晴明が本気で怒りそうだったので、それ以上からかうのをやめた銀が肩を竦めると、息吹がぺこりを頭を下げ、嬉しそうに笑った。


「おやすみなさい、銀さん」


「ああ、よく寝るんだぞ」


そして2人が去ると、銀は晴明の盃を手に勝手に酒を並々と注ぐと、一気に呷った。


「誰かに似ているとずっと考えていたんだが…妹に似ているんだな」


可愛らしかった妹――

ようやく安らかな眠りについた、妹――
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