主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
主さまの声はもちろん息吹に聴こえていた。
だが返事をしてはいけない。姿を現してはいけない。
晴明とそう約束をしたので、膝の上で拳を握りしめて、耐えた。
…あんなに優しい声で呼びかけられたのは、はじめてだ。
だが、全ては自分を食べてしまうため。
そんな主さまの元へ帰るわけにはいかない。
「どうして出てこない?…いやなのか?俺が何かしたか?」
「あと数年経てば何かするつもりだったんだろう?」
「…お前…息吹にそれを話したんだな…?」
「いずれ知ることだ、私が話しても何も問題はないだろう?」
――晴明は半妖とは言え、主さまに匹敵する程の力を持ちながら人として生きる道を選んだ。
本気を出せば、退けることもできる。
だから余裕を持ってまた盃を口に運ぶと安心させるように話しかけた。
「私の養女として大切に育ててやる。年頃になったら格式ある家に嫁がせて幸せな人生を送らせてやる。だから心配するな」
「ふざけるな…息吹は俺のものだ!」
音もなく刀を抜くと晴明に襲い掛かり、振り下ろされた刃を…人差し指と中指の間で止めた。
「よしておけ。私とそなたが戦えばこのあたりもただでは済まぬぞ」
「…何を考えている」
「何も。息吹を食われるのが嫌なだけだよ」
にらみ合い、根負けしたのは主さまの方だった。
とにかくいらいらして、息吹に例のことを知られたのが嫌で、もう1度呼びかける。
「息吹、もう戻って来ないのか?皆と会えなくなるぞ」
「…」
「息吹!」
「見苦しいぞ。誰が食われるためにそなたの元へと戻るのだ?考えて発言しているか?」
「…」
〝あなたはとても大切なものを失います”
――件の予言が脳裏をよぎった。
このことだったのか、と知ってよろめいた時…
密かに件の命もこの時、終えていた。
予言は、当たったのだ。
「もういい…。わかった」
「息吹が嫁に行く時位は会わせてやる。大切に育てるから心配するな」
――それから6年…
息吹は晴明の屋敷から出なかった。
だが返事をしてはいけない。姿を現してはいけない。
晴明とそう約束をしたので、膝の上で拳を握りしめて、耐えた。
…あんなに優しい声で呼びかけられたのは、はじめてだ。
だが、全ては自分を食べてしまうため。
そんな主さまの元へ帰るわけにはいかない。
「どうして出てこない?…いやなのか?俺が何かしたか?」
「あと数年経てば何かするつもりだったんだろう?」
「…お前…息吹にそれを話したんだな…?」
「いずれ知ることだ、私が話しても何も問題はないだろう?」
――晴明は半妖とは言え、主さまに匹敵する程の力を持ちながら人として生きる道を選んだ。
本気を出せば、退けることもできる。
だから余裕を持ってまた盃を口に運ぶと安心させるように話しかけた。
「私の養女として大切に育ててやる。年頃になったら格式ある家に嫁がせて幸せな人生を送らせてやる。だから心配するな」
「ふざけるな…息吹は俺のものだ!」
音もなく刀を抜くと晴明に襲い掛かり、振り下ろされた刃を…人差し指と中指の間で止めた。
「よしておけ。私とそなたが戦えばこのあたりもただでは済まぬぞ」
「…何を考えている」
「何も。息吹を食われるのが嫌なだけだよ」
にらみ合い、根負けしたのは主さまの方だった。
とにかくいらいらして、息吹に例のことを知られたのが嫌で、もう1度呼びかける。
「息吹、もう戻って来ないのか?皆と会えなくなるぞ」
「…」
「息吹!」
「見苦しいぞ。誰が食われるためにそなたの元へと戻るのだ?考えて発言しているか?」
「…」
〝あなたはとても大切なものを失います”
――件の予言が脳裏をよぎった。
このことだったのか、と知ってよろめいた時…
密かに件の命もこの時、終えていた。
予言は、当たったのだ。
「もういい…。わかった」
「息吹が嫁に行く時位は会わせてやる。大切に育てるから心配するな」
――それから6年…
息吹は晴明の屋敷から出なかった。