主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
この赤子の親御の捜索…

空海から銀を遠ざけ、隠し通すための方法…


考えなくてはならないことが沢山ありすぎてあまり眠れないまま夜が明けてしまい、息吹が晴明を起こしに部屋まで行くと、部屋の主はすでに起きていて何かの巻物を読んでいた。


「父様もう起きてたの?朝餉作るから一緒に食べよ?」


「ああ、ありがとう。今日は先に幽玄町へ行きなさい。後で合流するがまた朝廷へ行かねばならないから、十六夜の傍に居るんだよ」


「はい。じゃあ準備してきますね」


そして一緒に朝餉を食べて、部屋の掃除をして身支度を整えると無人の牛車に乗り込み、幽玄町へ向かったのだが…


突然がたんと大きく牛車が揺れて、小さな悲鳴を上げてしまった息吹は恐々と御簾を少しだけ開けると、そこには脚を痛めてしまったのか、幼い男の子が牛車の傍らに座り込んでいた。


「大変!大丈夫!?脚が痛いの!?」


「平気!いた…っ」


髪を乱雑にひとつに括った男の子が顔を上げた。

一瞬見惚れるほど綺麗な顔をしていて、また男の子の方も息吹を見るとぽっと頬を染めた。


「あんた…陰陽師の安部晴明の養女だろ?」


「そうだけど…それより大丈夫?お家はどこ?送るから中に乗って」


「え…う、うん」


牛車の中で男の子が押さえている部分を観察したのだが…右の足首は盛大に腫れていて、恐らくこれから熱も出るだろうしさらに腫れるだろう。

そしてどんどん男の子の顔色が悪くなっていくのが気になり、息吹は顔を覗き込んでその理由を問うた。


「どうしたの?顔色が悪いよ?」


「俺…これから稼ぎに行かなきゃいけなかったんだ。俺が働かないと食い扶持がなくなってしまう…。お母ちゃんに食わせるものが…どうしよう…」


――平安町で暮らしている者にも貧しい者は多い。

中央の通りには立派な建屋が多いが、一歩路地へ入ると粗末な建屋も多く、恐らくこの子も貧しい生活をしているのだろう。


息吹は責任を感じて、今にも倒れそうな斜めになっている建屋の前に着くと男の子の両手をぎゅっと握った。


「私のせいだから、しばらく父様の屋敷に来て。離れがあるから、そこを掃除するから怪我が治るまでそこにお母様と一緒に暮らしてほしいの。ね、お願いだからそうしてっ」


「え…でも…」


息吹は有無を言わさず、ぼろ屋の中へ突入した。
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