主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
どんなに追及しようとものらりくらりと回答を交わす空海に業を煮やした晴明は、印を結んだ手を空海に突きつけた。


「御託はどうでもいい。何の術をかけたのかと聴いている。言わぬとまたこの宮が崩壊するぞ」


「どうぞ、私には仏の守護があるので私は助かるでしょう。…近くに居すぎるとわからぬものがあるというのは真のようです。晴明殿とあろう者が…」


やれやれと首を振った空海の言葉に眉をひそめた晴明は、幼い頃の息吹と出会った時に感じた小さな違和感を思い出した。

…何か普通の人とは違うような、そうでないような。

妖の主である主さまと長く接しすぎたために主さまの妖気が香のように移っただけだと思っていたが、その違和感が拭えずに息吹を幽玄町から連れ出した。

それに主さまから食われる運命を回避させたかったのもある。


「息吹が…なんだ?」


「おわかりにならぬのであればゆるりと待たれるが良い。あなたにとっても悪いことではない」


「…釈然とせぬ。今ここで全てを明らかにせよ」


「あなたこそ私に隠していることがあるのでは?…御子のこととか」


ばちばちと火花を散らす両者に及び腰になった道長は、勇気を振り絞って間に入ると腰に差していた刀に手をかけて牽制した。


「やめられよ。そなたらは協力して御子殿を捜す約束を帝と交わしたはず。息吹の件は御子の件が済んでから話し合ってくれ」


「これは申し訳ない。かまをかけただけですよ、御子殿はまだ見つかっておりませぬ。さあ晴明殿、私はまだ本調子ではないのでゆっくり休みたい」


…確かに顔は青白いし健康的ではないが、自業自得だ。

そんな感情が顔に出たのか、道長から肘を突かれると仕方なく腰を上げた晴明は最後にもう1度牽制をした。


「そなたを見張っている。もう息吹には構うな。何をしようとも私が阻止してみせる」


「楽しみにしております。あなたと蘆屋道満との対決には痺れたものです。あなたと対決できるならば私も本望だ」


…食えない男だ。

珍しく憮然とした表情で部屋を後にした晴明は、追いかけてきた道長を肩越しにちらりと見て声色を落とした。


「引き続き見張りを。そなたには迷惑をかける」


「なに、俺に任せろ」


――笑い合ったが…
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