他人任せのジュークボックス
 店を後にする。

 そうして十分な距離をとってから懐のブツを取り出して、街灯にさらしてみた。

 手のひらにすっぽりと収まる、台座の上にガラス球がついた置物。

 球の中には雪だるまとツリー。

 軽く振ってやると中で雪が舞うという、いわゆるスノードームってやつだ。

 街灯の光を受けてさらさらと瞬く偽物の雪。

 きまぐれな善行にはおあつらえ向きじゃあないか。

 再び懐にしまう──と、その時、

「ずいぶんと、乙女チックなブツじゃぁないか」

 唐突に、暗闇から時代遅れのトレンチーコートに身を包んだ初老の男が、デートの待ち合わせに遅れてきた男に待ちくたびれた感をアピール女のように、気だるそうなゆったりとした動きで現れた。

「おまえさんにそんなものを贈る恋人がいたなんてぇのは、初耳だな」

「俺もそんな女がいたなんて初耳だな」

 ちっ、なんだってこんなときにこいつに出くわすかな。

「つれない顔をするなよ。今日はクリスマスだ。もうちっと景気のいい表情をしろよ。ん?」

「警部こそ、今日はクリスマスだ。馬鹿騒ぎして人様に迷惑振りまいてる輩をとっ捕まえにいったほうが、いいんじゃないかい? それが警察の本分ってやつでしょ」

「そうしたいところなんだが、今日は非番なのさ」

 くそっ。

 何が“非番”だ。

 まるで隙がないじゃないか。

 相変わらずのタヌキだ。

「左様で。ならさっさと奥さんにプレゼントでも持って帰ったらどうだい? チキンも冷めちまうだろ」

「うちは仏教徒なんでな。今夜は鍋だ」

 仏教徒だから鍋っていうのは関係ないだろ。

 さて、どうしたものか。

 どういう経緯で俺の居場所をつきとめたのかは知らないが、気配から察するに、警部以外に“はってる”様子はない。

 なら、単純に足でまくか?

 

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