他人任せのジュークボックス
「サンタクロース気取りか?」

 重心を後ろに移したところで、警部の発言に返しかけた踵(きびす)の動きを止める。

「なんの、ことだ?」

 しくじった?

「いやなに。小耳にはさんだ話さ。この時期だ。神様も浮かれてんじゃねえかい? 口が軽くなってんだろ」

「仏教徒っていったくせに。仏さんじゃねぇのかよ」

「親戚みてぇなもんだろ?」

 ちげぇよ。

 ったく、相変わらず耳聡いな。

 情報屋をそろそろ変える時期か……いや、今はそんなことはどうでもいい。

「で、いくのか?」

「説教か?」

「まさか。非番っていっただろう?」

「…………」

 逡巡する。

 ここで振り切るのは簡単な話だ。

 しかし行き着く先がおそらく知れてる今、俺が目的を完了することはつまり、あのチビと俺に明確な“接点”が生まれちまう。

 それがチビのこれからにどういう影響を及ぼすか。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ふぅ」

 ここまで、か。

 しまっておいたスノードームを再び取り出す。

 緩やかに舞うイミテーションの雪が、俺を嘲笑(あざわら)う。

『柄にも無いことしようとするからさ』

 つぶらな瞳の雪だるまが、生意気にもそう呟いた気がした。

「盗むことが本業の人間が贈り物するなんてのが、そもそもコメディだったか」

 スノードームを放る。

「悪くはないがね」

 受け取り、軽く街灯にかざす警部。

「ふむ。物選びのセンスは、いいんじゃないか?」

「そりゃどうも。それなりに目は肥えてる方なんでね」

 改めて、踵を返す。

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