絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 あまりに真剣な表情に恐怖すら覚える。
「え……」
 視線を逸らした。
「僕は今、自分でもよく耐えてると思う。だけどもう、このまま野放しにして、辛い想いや、悲しい想いをさせたくない」
「……つら、い……」
「この前の事件のときだって、結局何もしてあげられなかった。確かに、それは彼氏、彼女の関係になく、あの状況であれば何もしてはあげられなかったと思う。だけど、心の頼りにはなると思うから……。そういう存在でいさせてほしい。
 そういう存在になりたいと思ってるから」
「……」
 そんなこと突然言われても……と心の中では思ったが、確か突然ではない。
「どうして?」
 静かに問う。
「愛しいと思うからだよ……。理由なんかない」
「恋人になりたいって意味?」
「形には拘らないよ」
「だけど、そういうことよね? 誰か、一人を選ぶっていう。その人を……好きでいて、支えて、守って、励まして……」
「そう」
「私が……レイジさんを?」
 問いかけてみて、なんて失礼なことだと気付いたが続けた。
「そう。そういうこと」
「……なんか、考えられないな……」
 本当に考えられなかったので、ありのままを言う。
「そう?」
「うん……」
「……他の、誰かならそれができるの?」
「……どうだろう。今は、そんな人、いないかな……」
「だけど僕じゃダメなんだ……」
「うん……。分かる。レイジさんと私がそういう関係になったら、どんな風でどんなになるか……」
「予想と現実は違う」
「そうだけど。そうじゃなくて、恋人同士ってどうだったかなって思い出して。例えば、毎日電話したり、食事したり。そういうの、今の私には、できない気がする」
「そんな楽しい気分じゃないんだよ。僕は、一緒にデートをしようって言ってるんじゃない。疲れたら、疲れたって言ってほしいだけ。今日は疲れたって、そのまま、このベッドで眠ってほしい。それだけなんだよ……」
「それじゃあ、今と同じじゃん(笑)」
 香月は素直に笑った。
「いや……確証がほしいかな……。不安なんだよ。僕のベッドでだけで眠って欲しいと思うのに、僕がいないときはどこか他へ行っているかもしれないって。だけど、君が僕のベッドで眠りたいと思ってくれているのなら、少しは安心だ」
「あぁ……」
「そう」
「……今は」
「うん」
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