優しい手①~戦国:石田三成~【完】
落ち着きを取り戻した桃は奥州の覇者に失礼のないように、茶々からもらった着物を着た。

そして時間をかけて慣れない化粧を施して、部屋を出て、客人をもてなすための大部屋の襖を叩いた。


「姫!何と言う…」


真っ先に迎えてくれた幸村がほう、と感嘆の息を漏らし、中を覗き込むと…


それぞれが背を向けぬように並んで座り、その家臣たちも牽制するようにして距離を保って座っていた。


「おおっ桃姫なのか?これは美しい、今宵は是非我が寝所にて侍らせて…」


政宗が腰を上げてすかさず桃の手を取ると、謙信が手にしていた扇子が手の甲を打った。


「こらこら、はしたないよ」


「俺は何事にも時間をかけたくないのだ。姫、美しいぞ!ただ脚が見えぬのが残念だが」


「え、えっと…」


「いやあ、小十郎殿の君主殿は我が麗しの殿とは真逆に位置するお方ですな!功を焦られますと良いことはありませぬぞ」


「我が君は正直に生きておられるだけ。どこかの白黒つけず国に引きこもりな弱腰君主と比べると月とすっぽん」


またもや家臣同士で火花が散る中完全に漁夫の利状態な三成が桃を呼び寄せて隣に座らせた。


しおらしい美女に変身した桃を愛でながら謙信は盃を傾け、桃と目が合うと片目を閉じてウインクをしてみせたので、赤くなった桃を見せ付けるようにして謙信が無言で政宗に笑いかける。


何となく不穏な空気に幸村ただ一人が顔色を目まぐるしく変え、


肝心の桃は豪華な刺身の大盛りに夢中になって国主同士の無言の争いに気がついていない。


三成と言えばぴったり引っ付いて離れない桃に餌付けすべく好物を取ってやり、

政宗は機嫌が悪くなって盃を持ったまま美味しそうに刺身に舌鼓を打つ桃をにまにましながら見ていた。


「桃姫、俺のもやるぞ」


「わっ、ほんと?」


「桃姫、甘酒を注いであげるよ」


悪乗りした謙信が桃の盃に甘酒を注ぐと桃は一気にそれを飲み干した。


「おい、桃」


「だーいじょうぶだよお、これくらい」


すでに呂律は怪しかったが桃はすぐとろとろとしだして、 三成の膝を借りて眠ってしまった。


――男たちの戦いはここからだった。
< 115 / 671 >

この作品をシェア

pagetop