優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信は慰めてくれない。


けれど脚は謙信を追って部屋まで来てしまい、先に中へ通してくれると広い部屋を見渡した。


謙信がつけている独特の良い香の匂いがして、大きく深呼吸すると、少しだけ気分が落ち着いた。


「お姉ちゃん…心配そうな声だった…」


「そうだね、同じ血の通った妹姫が突然居なくなったんだ。心配するよ」


座布団を出してくれたので、儚げな笑顔をたたえている謙信の前に座り、じわりと目に涙を浮かべた。


「謙信さんのお父さんやお母さんは?どこにいるの?」


――歴史を深く勉強していない桃は謙信の生い立ちを知らず、無邪気に聞いたが…

当の謙信は、書物を手に取ってぱらぱらとめくりながら首を振る。


「私には姉上だけだよ。仙桃院と言ってね、姫と同じ名前なんだよ」


「あ…、そういえばはじめて会った時そう言ってたね。謙信さんのお姉さん…いきなりここに来ちゃって心配してるんじゃない?」


「いや、私が“ある女子に会いに行く”と言ったら“今すぐ行って来なさい”って言われちゃって追い出されちゃった」


あはは、と声を上げて笑った謙信についつられ笑顔になると、いつも笑みを浮かべているその表情が僅かに諭すようにキッとなり、桃に滔滔と言い聞かせた。


「私たち武将は自分の親御とまともに一緒に居たことはほとんどないんだ。家督争いや権力争い…様々な因のものに囲まれて生き残った者こそが勝者。三成や眼帯の坊やもそうなんだよ。だから姫…」


突然きゅっと手を握ってきて、その長い指を絡めてきたので、桃は思わず身を竦めた。


「だから、私は安易に“親御にすぐ会えるよ”とは言わない。確かでないことは口にしない主義なんだ。もしそう言って私に慰めてもらいたいのなら、今すぐここから去るといいよ。私にはできないから」


――相変わらず、手厳しい。


優しすぎる顔立ちをしているので、つい優しい言葉をかけてもらえるのでは、と期待してしまい、そして勝手に傷つく。


「…ごめんね謙信さん…私…」


「姫がほしい言葉をあげられない私がいけないんだ。義を感じることができないことには加担しないからね、覚えておいて」


ばちんとウィンクをされて、また笑みを誘われた。
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