優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「桃…茶々殿がそなたに会いに来ている。…会ってはもらえぬか」
「…私…話すことないから」
――何とも形容しがたい雰囲気の空気が流れ、席を外そうと思った謙信が立ち上がろうとした時…
「…」
「ここに居て」
謙信の手を桃が握った。
そんなことは普段なら起こるはずがなかったので、立つのをやめてまた腰を下ろし、桃を迎えに来た三成を見上げた。
…かなり憮然としているのがありありで、思わずぷっと笑うとさらにその表情が険しくなる。
「行ってきたら?茶々殿は優しくしてくれたんでしょ?最後の別れをしておいでよ」
「…うん」
――桃がそう返した返事に三成の眉が上がる。
その脇をすり抜けるようにして桃が無言で去って行き、見えなくなるまで見送ると、謙信を見下ろしながら押し殺した低い声で忠告をした。
「桃に余計なことを吹き込まないで頂きたい。桃の意志を優先すると貴公はのたもうたはずだが」
「誰かさんがもたもたしているから尻を叩いてあげているんだよ。少し気合が入ってきたから、私も本腰を上げるからね」
眠っている龍を叩き起こしかねない状況に陥り、内心舌打ちをしながらも茶を持って戻ってきた兼続から部屋の中へと押し込まれる。
「木偶の坊め、入り口で立つな!殿、茶を点てて参りました!やや?桃姫が居られませぬが!」
「用ができて席を外してるから三成に飲んでもらおうよ」
「畏まりました!三成、茶でも飲んで行け。そして殿の素晴らしき口上をお聞きし、心を洗うがいい!」
――一歩優勢に立ったはずの謙信だったが、相変わらずけだるそうに欠伸をしてとろとろしていると、兼続がそそくさと掛け布団を手に謙信に恭しく差し出した。
「いつもなら昼の惰眠を貪る時間でございますが珍しいですな!」
「ああ、だって姫の裸見ちゃったら眠れるわけないし。夜も眠れるかどうかわからないし。三成、姫は夜私が預かるかもしれないから、そのつもりでね」
「…」
――ぎり、と歯ぎしりでも聞こえてきそうなほどに怒りを堪えているのが伝わってきた。
あの甲斐の虎と対等にやり合う越後の龍にとっては子供をあやすに等しき恋の戦だった。
「…私…話すことないから」
――何とも形容しがたい雰囲気の空気が流れ、席を外そうと思った謙信が立ち上がろうとした時…
「…」
「ここに居て」
謙信の手を桃が握った。
そんなことは普段なら起こるはずがなかったので、立つのをやめてまた腰を下ろし、桃を迎えに来た三成を見上げた。
…かなり憮然としているのがありありで、思わずぷっと笑うとさらにその表情が険しくなる。
「行ってきたら?茶々殿は優しくしてくれたんでしょ?最後の別れをしておいでよ」
「…うん」
――桃がそう返した返事に三成の眉が上がる。
その脇をすり抜けるようにして桃が無言で去って行き、見えなくなるまで見送ると、謙信を見下ろしながら押し殺した低い声で忠告をした。
「桃に余計なことを吹き込まないで頂きたい。桃の意志を優先すると貴公はのたもうたはずだが」
「誰かさんがもたもたしているから尻を叩いてあげているんだよ。少し気合が入ってきたから、私も本腰を上げるからね」
眠っている龍を叩き起こしかねない状況に陥り、内心舌打ちをしながらも茶を持って戻ってきた兼続から部屋の中へと押し込まれる。
「木偶の坊め、入り口で立つな!殿、茶を点てて参りました!やや?桃姫が居られませぬが!」
「用ができて席を外してるから三成に飲んでもらおうよ」
「畏まりました!三成、茶でも飲んで行け。そして殿の素晴らしき口上をお聞きし、心を洗うがいい!」
――一歩優勢に立ったはずの謙信だったが、相変わらずけだるそうに欠伸をしてとろとろしていると、兼続がそそくさと掛け布団を手に謙信に恭しく差し出した。
「いつもなら昼の惰眠を貪る時間でございますが珍しいですな!」
「ああ、だって姫の裸見ちゃったら眠れるわけないし。夜も眠れるかどうかわからないし。三成、姫は夜私が預かるかもしれないから、そのつもりでね」
「…」
――ぎり、と歯ぎしりでも聞こえてきそうなほどに怒りを堪えているのが伝わってきた。
あの甲斐の虎と対等にやり合う越後の龍にとっては子供をあやすに等しき恋の戦だった。