優しい手①~戦国:石田三成~【完】
茶々を待たせている部屋に入ると、茶々はずっと頭を下げたまま桃を待っていた。


「茶々さん…!?」


「桃姫…ほんに申し訳ないことをしました…。どうかわたくしに弁解をさせてください…!」


――長女の桜に似た美しい茶々からこうして頭を下げられると桃ももどかしくなって茶々の前にどすんと正座した。


「…茶々さん、三成さんのことが好きなの…?」


「…」


返事はなかったが、俯いた唇が震えていた。


それが返事だとわかり、桃も黙り込む。


秀吉の側室なのに。

これはあってはならない禁断の恋。


…自分も、同じ。


茶々を怒れる資格もない。

三成を怒る資格も、ない。


「茶々さん…私と同じだね。私も三成さんとは両想いになれないから、立場は同じだよ」


「…?ですが…三成は越後から戻ってきたらそなたと祝言を挙げると…」


――桃も茶々と同じく唇を震わせながら次々に涙を指で拭いながら茶々に抱き着いた。


「ううん、駄目なの…!私も…私も三成さんのこと好きだけど…駄目なの…!」


それ以上は明かせない。


三成と約束したから、言えない。


「わたくしはあの時どうかしていたのです。わたくしが…わたくしが堪えきれなかっただけのこと…!」


「私たち同じだね…三成さんのこと好きだけど…どうにもできない!ぅ」


ついには茶々も泣き出してしまって、二人で泣きながら抱きしめあい、


部屋の外で番をしていた幸村は、会話こそ聴こえなかったが大声で泣いている二人におろおろしつつ誰を呼ぶこともできなくて耳を澄ます。


政宗、謙信らから慰められたことは知っていたが、桃は自分の所には来てくれていない。

それを少し悲しく思いつつ、自分にはまだ頼ってもらえるような男ではないのだと男力を上げる決心を固める。


「幸村」


二人を心配しておずおずと現れた三成に首を振った。


「茶々殿も桃姫も…泣きじゃくっておられます。今はそっとしておきましょう」


「…そうか」


怜悧な横顔に後悔の影が差す。


理由はわからないなりに、茶々と桃が三成のことで泣いているのだと悟り、じっと耐えた。
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