優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「三成は、わたくしのことなど微塵も想ってはいません。あなたを誤解させてしまいました、本当にごめんなさい…」


正真正銘の本物のお姫様に深々と頭を下げられて、二人とも鼻を真っ赤にしながら頭を下げ合う。


「私こそ…。抱き合ってる二人を見たらカーってなっちゃって…ごめんなさい」


ぐすぐすと鼻を鳴らしながら笑い合って、いつも姉の桜がしてくれたように頭を撫でられて、心が落ち着いた。


「もう帰ります。三成からの弁解にもどうか耳を傾けてやってくださいね。三成は…そなたが愛しくてならないのです。結ばれない運命などと言わず、どうか…」


――茶々の言葉の端々からも、三成を心底想っていることが受け取れる。

苦しいはずなのに、そうして背中を押してくれる茶々のためにも三成の話を聞いて、そして謝らなければならない。


「ありがとう茶々さん…。私ちゃんと戻ってくるからまた私とお話してね」


「わたくしからもぜひお願いします。さあ早く行って。わたくしは大丈夫ですから」


「うん!」


慌てて立ち上がり、部屋から出ていくと僅かに見えた幸村と目が合い、中へと招き入れた。


「そなたも苦労しますね。三成は大敵でしょう?」


――桃の心を揺らしているのは石田三成と、上杉謙信。


伊達政宗はまだ若く恋の駆け引きを知らない。

…そして自分自身も。


「…拙者は桃姫のお心を絡め取ることなど到底できそうにもありませぬ」


「正直なこと…。そなたも越後へと赴くのでしょう?道中桃姫のことをよろしく頼みましたよ。無事に尾張へと送ってくださいね」


「はっ」


――一度律儀に頭を下げて、退出した。


女子の扱いなどまるで知らないけれど、桃の心に少しでも入り込めるのならば、どんなことも厭わないと心に決める。

ただ桃の悲しい顔はやはり見たくない。

だから今は、三成と再び心を通わせることが一番だと言い聞かせ、愛用の十文字槍を握ると三成邸の裏山を駆け抜け、己の幻と戦った。


…こんなにもやもやしたのははじめてだった。


戦に出て無心に槍を奮っていた方が遥かに簡単で、楽だった。


「これが…恋か…」


戦馬鹿がようやく恋を自覚する。
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