優しい手①~戦国:石田三成~【完】
桃は帯を解こうとする三成の大きな手の上から手を重ねてそれを押しとどめた。


「だ、駄目!見られたくないから…見ないで!」


「…その謙信の痕、しばらく残るぞ。あの男、ついに本性を現し始めたか」


無理強いをよしとしない三成は、本気で嫌がる桃から離れて、羽織を桃の肩にかけてやり、ため息とともに座った。


「…怒っちゃった?」


「怒ってはいない。謙信が怖くなっただけだ」


――今まで飄々としてはいたが、時機を読み、隙を突くかのように桃の心を絡め取ろうとした。

実際その作戦はほぼ成功していて、風に揺れる草のようにしなやかで…

野に咲きつつも存在感を一段と見せつける一輪の花のように豪奢で…


“好きだ”と言葉を交わし合っても桃の心が揺れているのがわかるし、

また思うように優しい言葉もかけてやれず、嫉妬ばかりしてしまう自分自身にも嫌気がさしつつあった。


「今宵は…寝所を共にするのはやめよう。できれば幸村と居てくれると助かる」


「え…」


――三成の鋭い瞳が和らぎ、やや桃を安心させつつも、目の前に座り込んで自身の身体を抱きしめた。


「なんで…?私が謙信さんに色々されちゃったから…?」


思えばかなり際どかったと思う。

あそこが政宗の部屋ではなく謙信の部屋で、

それが夜だったならば…あの美しくもしなやかで力強い男に抱かれていたかもしれない。


「…俺は今嫉妬に苦しんでいる。醜い姿は晒したくはない。桃、わかってくれ」


「私だって…すごく苦しかったよ?でもお互い様だよね…。うんわかった、今日は幸村さんと居るね」


「ああ。間違っても政宗や謙信に近づくんじゃないぞ。桃、道中は俺が必ず守ってやる。だから今宵だけは見逃してくれ」


「うん、ありがと」


とりあえず仲直りができてにこっと笑うと、三成の大好きな手が頬を撫でた。


それだけで身体が反応してしまってびくっと引きつる桃の身体を、三成がゆっくりと抱きしめた。


「名残惜しい。今しばらくは…腕の中に居てくれ」


「…うん」


徐々に陽が落ちてゆく。


この時幸村は何も知らずに鼻歌を唄いながらクロをぴかぴかに洗ってやっていた。
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