優しい手①~戦国:石田三成~【完】
もう恋慕を抑えることのできなくなった幸村は、態勢を入れ替えて桃を押し倒す形になった。
「…桃姫、今しばらはこのままで。こうして視界を塞いでいた方が安心できます」
「うん、でも音が…」
外からは相変わらず人と人が戦い合う音が聞こえていて、幸村は今度は桃の両耳を手で押さえて塞いだ。
そうしていると本当に安心してきたのか桃が目を閉じて、しかも背中に手を回して身体に触れてきたので、よけいに感情の針が振り切れそうになる。
「桃姫…拙者は…あなた様が愛しい」
耳を塞いでいるので、幸村のその告白は桃には聴こえていない。
だが唇が動いて何かを言っているのはわかるので、大きな黒瞳がきょとんとしていた。
「あなた様が殿のご正室に収まれば…拙者は…俺はあなた様のお傍に居ることができる」
不毛すぎるが、それでもいい。
謙信なら誰よりも深い愛を桃に与えることができるだろう。
“この時代に留まりたい”と思わせることができるだろう。
…三成の道は、茨の道だ。
それに同僚受けも悪い。
「三成殿よりどうか殿をお選び下さい。さすれば俺はあなたのお傍に…」
「え?幸村さん?何て言ってるのか聴こえないよ…」
せめて思いを口にしたい。
それを聴いてもらうわけにはいかないけれど…せめて――
――その頃、大勢の刺客に囲まれていた三成たちはお抱えの忍者集団と共に確実に刺客を屠っていた。
特に謙信の、所作が限りなく少ないが、誰よりも多くの刺客を死に至らしめている姿を間近で見ていた三成にはその“軍神”の恐ろしさを改めて思い知る。
「数が多いね、越後に近づく度にもっと増えたりして」
「くそっ、鉄砲が欲しい!全員撃ち殺してやるのに!」
血気盛んに政宗が吠えながら、それでも見事な働きを見せて窓を見上げた。
「桃姫は大事ないだろうな?」
「幸村が傍に居るから大丈夫。あの子はすごいんだよ、何と言っても信玄の懐刀だからね」
唯一謙信と互角に渡り合うことのできる武田信玄の一本槍。
それこそ一騎当千の働きを見せる武将。
今は桃に心を奪われ、力を失っている武将――
「…桃姫、今しばらはこのままで。こうして視界を塞いでいた方が安心できます」
「うん、でも音が…」
外からは相変わらず人と人が戦い合う音が聞こえていて、幸村は今度は桃の両耳を手で押さえて塞いだ。
そうしていると本当に安心してきたのか桃が目を閉じて、しかも背中に手を回して身体に触れてきたので、よけいに感情の針が振り切れそうになる。
「桃姫…拙者は…あなた様が愛しい」
耳を塞いでいるので、幸村のその告白は桃には聴こえていない。
だが唇が動いて何かを言っているのはわかるので、大きな黒瞳がきょとんとしていた。
「あなた様が殿のご正室に収まれば…拙者は…俺はあなた様のお傍に居ることができる」
不毛すぎるが、それでもいい。
謙信なら誰よりも深い愛を桃に与えることができるだろう。
“この時代に留まりたい”と思わせることができるだろう。
…三成の道は、茨の道だ。
それに同僚受けも悪い。
「三成殿よりどうか殿をお選び下さい。さすれば俺はあなたのお傍に…」
「え?幸村さん?何て言ってるのか聴こえないよ…」
せめて思いを口にしたい。
それを聴いてもらうわけにはいかないけれど…せめて――
――その頃、大勢の刺客に囲まれていた三成たちはお抱えの忍者集団と共に確実に刺客を屠っていた。
特に謙信の、所作が限りなく少ないが、誰よりも多くの刺客を死に至らしめている姿を間近で見ていた三成にはその“軍神”の恐ろしさを改めて思い知る。
「数が多いね、越後に近づく度にもっと増えたりして」
「くそっ、鉄砲が欲しい!全員撃ち殺してやるのに!」
血気盛んに政宗が吠えながら、それでも見事な働きを見せて窓を見上げた。
「桃姫は大事ないだろうな?」
「幸村が傍に居るから大丈夫。あの子はすごいんだよ、何と言っても信玄の懐刀だからね」
唯一謙信と互角に渡り合うことのできる武田信玄の一本槍。
それこそ一騎当千の働きを見せる武将。
今は桃に心を奪われ、力を失っている武将――