優しい手①~戦国:石田三成~【完】
ようやく襲い来る刺客を倒し、地に倒れる骸を眺めていた時――


二階で幸村に守られていたはずの桃が飛び出て来た。

口元を抑えて絶句する桃の肩を幸村が背後から優しく抱いた。


だが幸村にとっては見慣れた光景だ。
こんな数十の刺客など、ものの数ではない。

現に謙信や三成、政宗たちも数は特に問題ではなく、桃の視界から骸を隠すかのような動きをして立ち塞がった。


そんな中、謙信はただ一人まだ絶命した刺客たちを見つめている。


「謙信さん…?」


「こんな死に方、極楽へ行けるわけもない。せめて一撃で葬ったつもりだけれど…やっぱりいい思いはしないものだ」


骸の山。

けれど慈愛の眼差しで持って見つめ佇むその様は、まさに仏だ。


だが桃にとっては地獄絵図の何物でもなく、幸村に縋り付いてまた泣き出してしまい、慰めのひとつもできないことが歯がゆく唇を噛み締めていると…


「幸村様、半蔵が…!」


高い木の上から声が降って来て、一瞬にして武将の顔に戻った幸村が桃を三成に押し付けて十文字の槍を握り、突然走り出した。


「幸村さん!」


「徳川の服部半蔵です!皆様は宿の中へ!」


誰も居なかったはずの暗い一本道にゆらゆらと影が生まれて、大地から脚が生え、そして細身の無表情の男が姿を現した。


「真田幸村、邪魔をするな。俺はそこの女子を貰い受けに来ただけだ」


「ぬかせ!桃姫は渡さぬ!徳川の狸め、何を考えている!?」


ものすごい速さで長い槍が振られ、それをひらりと避けて、宿の前で固まっている桃たちに目を遣った。


「上杉や伊達が執心しているというのも真の話らしいな。だがそこの女子は我が主君徳川家康様のものなる。早々に去れば命は奪わん」


「へえ、面白いこと言うんだね」


特別感情がこもらないその謙信の呟きに、半蔵がぞっとしたように木の上に飛び移った。


「上杉謙信、貴公に勝てるとは思っていない。次は十分に準備をして出直す」


「そうしたらいい。その時は…私の本気を見せてあげよう。服部半蔵、全ての部下を連れて来るんだよ。皆、君と一緒に死にたいだろうからね」


静かに気圧され、誰もが息を呑む。
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