優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「何事で…きゃ…っ」


眠っていたはずの清野が出てきて、その惨状に膝から崩れ落ちて震えだした。


自分だけではない。


そう思った桃が清野の手を握って落ち着かせてやろうとして近付いたが、幸村が身体を入れてきて立ち塞がる。


「…桃姫はどうか拙者とお部屋へお戻りになられますように」


「でも清野さん震えてるし…」


「桃、戻ろう。清野、このことは内密に。いいな?」


「は、はい…。でも…立てません…」


――恐怖に震えたか細い声で見つめるその先は…


刀を鞘に納め、こちらに向かって歩んできている謙信が居た。


…桃は、どこか複雑になってしまった感情を押し殺すことができず、黙り込む。


だが謙信は手を差し伸べて起こしてもらおうとする清野の細い手を通り越して桃の前に立ち、優しく肩に触れた。


「怖い思いをさせてしまったね。どうだろう、この際みんなで一緒に風呂でも入らない?」


先ほどまで刺客と戦っていた男とは思えないのんびり発言だったが、気乗りしないのは三成だけで、


「それはいいな!返り血を湯で流してさっぱりしようぞ!」


桃の肩を抱いたまま宿へと入っていくのを、まだ座り込んだままの清野が少し羨ましそうに見つめていた。


…そんな清野を、幸村と三成、そして後方から兼続と小十郎が腕を組んで見分していた。


「そなたは遠慮してもらおう。桃を唆すつもりのようだが、俺たちが決して許さぬ」


「わ、私はそんなことはしません!」


しおらしい女子を演出しているようにしか見えず、だがここで兼続が動いた。


「先ほどそなたが手を伸ばした御方は、越後を総べる上杉謙信公だ。ゆめゆめ触れようなどと思わぬように。あの方に触れていいのは桃姫と、拙者だけだ」


「上杉…謙信様…!?」


あたかも初耳だというように口元を抑えて驚いていたが、次は寡黙な小十郎が動く。


「そして眼帯のお方は奥州の独眼竜伊達政宗公。右に同じく、近付けば容赦せぬ」


「伊達…政宗、様…!」


「我らは故あって越後へと向かっている。そなたの話は早朝皆で聴く。早く部屋へ戻れ」


三成の突き放した言葉に、清野が呆けていた。
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