優しい手①~戦国:石田三成~【完】
どちらかと言うと鈍感な桃はこの時、自分以外が全て男であることに全く気付いていなかった。


「清野さん…大丈夫かな…」


一度部屋に戻って、すでに乾いていたバスタオルを手に取って露店風呂へと向かいながら清野を気にかけた。

桃の目からすれば、清野は全く疑う余地がない。

逆に脚をくじいてしまって可哀そうに、と思っていて、そして何よりも自分のことを知っている、と言ったあの発言が気になって仕方がなく、

そうやって上の空だったのも手伝い、バスタオルを身体に巻いて露天風呂へと通じる扉を抜け、中へと入ると…


「おおっ、これは…なかなか興奮するぞ!」


立ち込める霧のような湯気が張れて視界が晴れると、肩を並べて仲良く温泉に浸かっていた謙信と政宗が桃の頭から爪先までを撫でるようにして見つめていた。


「桃姫、こっちにおいで」


「え、えっと…その…」


「恥ずかしがることはないよ、私とはもうあんなことをした仲なんだから」


「なに!あ、あんなこととは何だ!」


数々の“あんなこと”が走馬灯のように蘇ってしまい、謙信の手招きを拒絶することができずに2人の間に入って肩まで浸かった。


「それを奪ってしまえばもう身に纏うものはないな。謙信公、そろそろ上がってはどうだ?返り血など浴びていない貴公は長風呂する必要はなかろう」


「私は本来長風呂だからもうちょっと入ってるよ。ねえ姫、もう怖くない?さっきはいきなりで驚いたよね、本当にごめんね」


「え、う、ううん、大丈夫です…。あ、あの、ちょっと…」


「何だ?」


「なに?」


――謙信の手が桃の腰を抱き寄せて、政宗の手が桃の肩を引き寄せる。


それぞれがとても大きな手で、湯でやわらかくなった肌はまるで三成の手のように優しい。


「手…手が…っ」


「何もそれを剥ごうとは思ってないよ。ちょっとだけ。ちょっと触ってるだけ」


「俺もそうだ。そなたの肩は細いな。唇で撫でてもいいか?」


「駄目っ、絶対駄目だから!」


必死で拒絶していると、湯の中の謙信の手が腰を撫でた。


「け、謙信さ…」


「ん、なに?」


しらばっくれる。
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