優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成たちが温泉に入って来た時、桃は2人に挟まれて居心地が悪そうにしていた。


どこ吹く風の顔の謙信に政宗が食ってかかっている。

そして桃は時折目を強く閉じて何かに耐えているような顔をしていて、それで湯の下で何かとんでもないことが起こっているのを察知した。


…だが三成は敢えて何も言わずに、桃たちから少し離れた場所に腰を下ろして湯に浸かった。


「幸村、こっちだ」


幸村もそれに気付いていたようで、はらはらしながら桃を何度もチラ見し、桃が助けを求めるようにこちらを見て口を開いたので、わざと聞こえよがしに言った。


「あのような窮地、脱そうと思えばいつでも脱することができるはず。ああ、こんなところにも血が…」


――戦場に出ることはあっても常に秀吉の傍に居る三成からしたら、謙信のように返り血を避ける余裕などなく、頬や首筋に返り血が点々とついていてそれを指で擦り落とす。


そんな三成の少し突き放したような発言が聞こえていた桃がとうとう動き、今度は幸村と三成の間に座った。


「も、桃姫…っ」


身体が温まって頬を上気させた桃の艶姿に幸村の声が上ずり、湯から出ている細い肩や首筋に視線が集中する。


「あの人たちと一緒に居るとなんか安心できないけど、2人なら安心!」


安全パイ宣言は正直2人にも微妙な影を落としたが、最前線で鍛え抜かれた幸村の強靭な上半身に桃が目を真ん丸にして声を上げた。


「胸筋すごいね!触ってもいい!?」


「は!?も、桃姫、そ、それはちょっと…」


「わあっ、すごく固いね!私の友達にも筋肉フェチが居てね、それでね…」


後半ほとんど意味のわからない話だったが、さわさわと胸を撫でる桃の手に興奮しそうになった時、その桃の手を三成が掴んで止めた。


「その辺にしておけ。ほら、そこの馬鹿殿たちが見ているぞ」


「馬鹿殿とは何だ!この男が桃姫に悪さをするから俺が叱っていただけで…」


「悪さなんてしてないよ。君は私を疑ってばかりだなあ、今は仲間なんだから仲良くしようよ」


“今は仲間”。

そうだ、この関係は今だけ。


危うく馴れ合ってしまう所で、気を引き締めて湯の下で桃の手を握った。
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