優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成と幸村には気安く話せる。

裸の付き合いというものを経験した桃は上機嫌で自分の世界の話をしていた。


「私ね、陸上の選手だったの。だから脚にはちょっと自信があるんだー!今度勝負しようよ!」


「お手柔らかにお願いいたします」


桃に構ってもらえてこちらも上機嫌な幸村が、湯に上せたのではなく、明らかに桃に上せた顔で鼻の下を伸ばすと、話に加わりたい謙信と政宗がにじり寄ってきた。


「脚が自慢とな?そうだな、桃姫の太股は最高だ!いつまでも撫で続けていたいぞ!」


「え、そういう自慢じゃなくって速さだもんっ」


「私も桃姫の太股は撫でたことがあるけれど、すべすべで気持ちいいよね。やわらかいし指の痕なんかすぐついちゃいそう」


聞き捨てならない謙信の発言に三成、政宗、幸村が色めき立つが、基本主君の色事には口出しをするつもりのない兼続と小十郎は輪に加わりつつも純粋に湯を楽しんでいた。


――ただ誰の目から見ても、桃が三成の傍から離れずに終始話しかけて気を引こうとしているのはわかる。

血気盛んでまだ若い政宗は実際かなり焦っていたが、彼にはまだ切り札があったのでじっと耐える。


「お父さんとお母さんの記憶って私はほとんどないんだけど、お姉ちゃんたちから話は沢山聞いてるし早く会いたいよ。元気にしてるかな…」


親を想ってやや意気消沈してしまった桃が、この時はっとなって顔を上げた。


皆が、湯の下の桃の手に触れていた。


「みんな…」


「伊達と上杉が全力で桃姫の親御を捜してやる。俺は桃姫の笑っている顔が好きだ。だから笑ってくれ」


隻眼の左目が優しく和らいで、普段雄々しい政宗が優しい言葉をかけてくれたので、うん、と小さな声で頷いた。


「…しかし俺たちの身体は傷だらけだが、本当に貴公は無傷なのだな。上杉謙信恐るべし」


政宗が羨ましそうにして謙信の上半身を眺めると、本人は湯に濡れた長い前髪をかき上げながら笑った。


「私の身体に傷をつける者が居るとしたら、それは武田信玄しか居ない。できれば戦いたくない相手ではあるね」


――幸村が伏し目がちに俯いた。

桃はそれに気付いていたが、かける言葉が見つからずに幸村の手を握った。
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