優しい手①~戦国:石田三成~【完】
幸村と合流し、一緒に部屋へと戻りながら幸村が首を傾げて顔を覗き込んだ。


「三成殿が居られませんが…ご一緒ではなかったのですか?」


「え!?居ないの?私は知らないよ、清野さんの所に行ってたから」


うっかり答えてしまうと三成と同じような顔になってしまったので、幸村の手を握って謝った。


「あの…ごめんね?いけないことだってわかってるんだけど、でもやっぱり心配だし…」


「なんとお優しいお心をお持ちなのですか…!しかし拙者は桃姫の御身の最優先こそが使命。口出しをすることも多々あろうかと思いますが、何卒ご容赦を…」


逆に深々と頭を下げられて、その清々しさに嬉しくなった桃が幸村と手を握ったまま部屋に戻る。


「やや?殿!拙者と同じく家臣の分際で殿のご寵姫の手を握っておりまするぞ!」


「こ、これは失礼を!」


そっと桃の手を離して傅くと、謙信は気にしてないという風に肩を竦めて窓から月を見上げた。


「気にすることはないよ。私が居ない時はこれからも君が桃姫を守ってゆくんだからね」


「政宗様、謙信公が桃姫をまるでご自分のもののようにおっしゃっておられまするが…」


「のーぷろぶれむだ。戯言と思えばどうということはない」


――政宗の口から飛び出た英語に桃が食いつき、政宗の隣にへばりついてきらきらした目で見上げた。


「今の英語だよね!?“問題ない”って言ったんでしょ!?」


何となく使ってみた南蛮の言葉に桃が思いきり食いついてきたので、上機嫌になった政宗は知っている南蛮の言葉を並び立てた。


「知っているとも。まい、ねーむ、いず、まさむね、だて!」


「すごいすごーい!My name is Momo!」


「ふむ、素晴らしい発音だな!」


「ほんと?!政宗さん英語がわかるんだね、嬉しいっ」


棚からぼた餅。

思わぬチャンスに恵まれた政宗が、これ見よがしに桃の肩を抱いて謙信に見せつけた。


「桃姫、今宵は南蛮について互いに話し合おうぞ。布団は俺の隣でいいな?」


「うん!いっぱい話そ!わー嬉しい!」


はしゃぐ桃を、謙信が窓辺に座って月光を背に受けながら目を細めて眺め、微笑んでいた。
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