優しい手①~戦国:石田三成~【完】
己を律して三成が部屋に戻った時――

何故か政宗にべったりな桃を見て、入り口で思わず脚が止まった。

桃の右隣が政宗、左隣が謙信という布陣で、明らかに今晩何かが起きそうな気配がした。


ただし当の謙信はもうすでに寝息を立てていて、その寝顔を桃が盗み見している。

惹かれる心は止めようがなく、一度窓から外を見ると、伊達と上杉の忍びの集団によって刺客の骸は綺麗に消えていた。


「どこの国の人と会ったの?」


「よーろっぱだ。俺の城にも奴らの出入りがあるぞ。葡萄酒やすてんどぐらすと言ったか、そのようなものを仕入れたりしている」


「葡萄酒ってワインのことだよね?伊達政宗が南蛮好きって私も聞いたことあったけど本当だったんだね!」


「俺の生き様はどのように伝わっているのだ?俺は天下統一を成したのか?」


――答えてはいけない質問をされてしまい、今まで笑っていた政宗がすっと表情を引き締めて桃に腕を伸ばして頬に触れた。


「…どうかな、忘れちゃった」


「忘れるわけがなかろう?天下は誰が成したのだ?謙信か?秀吉か?定石ならば信長だが」


「…ねえ、もっと南蛮のお話聞かせて?」


「桃姫、そなたが歴史を狂わせているのはもう事実だ。これを正すのにどれほどの時間がかかると思っているのだ?」


…みるみる桃の瞳が潤んできて、無理強いしてしまったことに政宗は激しい後悔を覚えながら、頬に触れた手で涙をぬぐってやった。


「すまぬ、忘れてくれ。もう一切聞いたりせぬから、俺を嫌いにならないでくれ」


左目が伏し目がちになり、長い睫毛が濃い影を落とす。


軽く首を振って鼻を鳴らした時、幸村が部屋の明かりを消した。


「おやすみなさい、政宗さん」


「ああ」


――桃が謙信の方へ寝返りを打った。

その目は伏せられていたが、その寝顔にしばらく見入る。


そして桃が目を閉じて眠ろうとした時…布団の中の手を優しく握ってくる手が在った。


「…謙信さん…」


「眼帯くんを許してあげてね、己の最期と天下を誰が成したのかは誰もが知りたいことなんだ。私は別に興味ないけどね」


気遣ってくれる優しい心に触れて、また鼻を鳴らした。
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