優しい手①~戦国:石田三成~【完】
正座して穏やかな美貌を不安に曇らせている清野を三成たちが窓辺に並んで座り、表情を引き締めていた。

幸村はそのまま入り口の前に立ち、逃げ口を封じる。


「おお桃、こっちに来い」


本当は清野の側に居たかったのだが、謙信以外の皆の顔が険しいので我が儘を言えない。


「で…、桃姫のことを知っているような口ぶりだが、理由を話してもらおうか」


――肘掛けにもたれかかり、激しく上目線の政宗からは命令に慣れきった一国一城の主としての風格があった。


清野は膝の上に握りこんだ拳に視線を一瞬落とし、そして桃を見て微笑んだ。


「越後で、桃さんのお父上とお母上と思しき方々とお会いしました」


「え…、え!?」


思わず身を乗り出した桃の肩を、横に座っている三成が引き、次は謙信が緊張感のない声で清野を撫でた。


「ふうん?で、君はどうしてそれを桃姫だと断言できるの?」


――最初からそうだったが、清野は謙信を好いている節がある。


今も話しかけられて少し嬉しそうにしながら、桃のように謙信に向かって身を乗り出した。


「“今頃は『こうこうせい』になっているはずだ”と。“桃に会いたい、桃と話したい”としきりに仰っておられて…」


「高校生!この時代にそんな言葉があるなんて思えない!やっぱり、やっぱりお父さんとお母さんだ!」


興奮して嬉しくて、三成の腕を揺さぶりながら、清野に詰め寄った。


「時計って懐中時計でしょ?それ、お母さんのなの!」


「黄金色の針が2つついている不思議な物でしたら見ました。桃さん、私は城下町で暮らしている茂さんとゆかりさんとお会いしました。お名前…合ってますよね?


――両親の名が清野の口から出た時、桃の頬からつっと涙が伝った。


「お父さん…お母さん…生きてた…!」


「桃…よかったな」


嗚咽が込み上げる桃の背中を三成が出てくれて、政宗が無言で手を握ってくれて、ただ一人謙信だけが、さらに清野に問いかける。


「で?君を一緒に連れて行けば桃姫の親御にすぐ会えるっていう話?」


「はい、ご案内できると思います」


「清野さん、一緒に行こう!」


意気込む。
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