優しい手①~戦国:石田三成~【完】
その日は炎天下でとにかく体力の消耗が激しく、また馬もバテてきだして、山奥を進んでいる一行は一旦立ち止まった。


「水の匂いがする。この辺に水脈があるはずだ、ちょっと探してこよう」


政宗が小十郎を伴って列を離れ、桃は木陰に座り込むと額を流れ落ちる汗を拭った。


「あっつ…。お水、浴びるほど飲みたいなあ…」


「桃、大丈夫か?」


同じように腕を流れる汗を手拭いで拭きながら三成が隣に腰を下ろし、何故か一人涼しい顔をして、脚を畳んで木陰に座った馬にもたれかかり、欠伸をしていた。


「うん、平気。今日は特別暑いから三成さんも熱中症に気を付けないとね」


「ああ。……桃、見ろ」


左前方で休んでいる謙信の元に清野が歩み寄る。


「謙信様…どうぞこちらをお使いください」


「別に汗なんかかいてないから必要ないよ」


これで会話は終わりだ、とばかりに目を閉じた謙信に業を煮やした清野がさらに詰め寄り、隣に腰を下ろした。


「私は…私は謙信様をお慕いしております。そんなに無下にされると私…っ」


「泣いたって無駄だよ。ひとつ言っておくけど君を信用したわけでもないし、私は桃姫しか欲しくないんだ。無駄なことはしない方がいい」


――真っ向から言葉を失う告白をされて、桃が絶句する。


言いようのない不安感に襲われた三成が、“謙信には渡さない”というように、謙信に見えるように桃の肩を抱いた。


打ちのめされた清野がよろよろと立ち上がり、近くの木陰に座り込むとさめざめと泣きだした。


「清野さん…」


「…嬉しいのか?」


――言い当てられてドキッとしながら振り仰ぐと、三成は切れ長の瞳を閉じたままさらに肩を引き寄せて汗でひんやりとした桃の指に指を絡めた。


「そなたの考えているこどなどすぐに見破れる。よくも謙信を本気にしてくれたな、俺も…本気になるからな」


何か言おうと口を開きかけた時――


「小さいですが泉を見つけました。順番に皆で入りましょう」


小十郎のその一言で元気を取り戻した桃がすくっと立ち上がり、清野に駆け寄って手を握った。


「一緒入ろ!水浴びだよ、嬉しい!」


皆の瞳が和らぐ。
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