優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「桃さん、私…水浴びする気分なんかじゃ…」


「気分転換にもなると思うし!汗かいて気持ち悪いでしょ?」


鞍に括り付けていたバスタオルを外して清野に手渡し、自分はバッグの中からひざ下まで隠れる紺色のロングTシャツを出して、それを見せた。


「私はこれ着て入るし!クロちゃん見張っててね!」


「俺たちの誰が覗くというのだ?失礼だな」


政宗はそう言って鼻を鳴らしたが、事もあろうか謙信は手を上げて宣言する。


「私は覗くよ」


「謙信公は俺が監視する。そなたたちは先に行って来い」


「えー?覗いちゃ駄目なの?」


駄々をこねる謙信の腕を引っ張って監視を決め込む三成に任せ、小十郎に案内されて獣道を進むと、確かにこんこんとわき出る小さな泉がある。


「やった!小十郎さん、ありがとう!」


「我が殿が発見いたしました。どうぞ殿を誉めてやってくださいませ」


家臣らしく主君を立てて恭しく頭を下げて去っていく小十郎に手を振りながら、早速桃ががばっとセーラー服を脱いだ。


「早く!清野さん、早く!」


そう言いつつ待ちきれずに脚を浸けると、身体の芯からひんやりとする感触に身震いした。


「わあ、つめたーい!気持ちいーい!」


はしゃぎまくる桃に、意気消沈する心も忘れた清野がジャージを脱いでバスタオルを身体に巻くと泉に入って来た。


透明度100%の泉は小さいと言えど三成たちが全員入れる大きさだったが、

なにぶん宿の温泉で謙信からものすごい目に遭ったこともあり、“一緒に入ろう”とは言えなくなった桃は、清野の手を握った。


「清野さん、あのね…私…三成さんのことが好きなの」


「…ええ」


「でも…謙信さんのことも…」


「ええ。あんな方に何も感じないはずがありません。桃さんが悪いわけではないし、私のことは気にしないでください。元々身分違いですから」


――身分違い。

それを言ってしまうと、自分だってこの時代に住んでいたら、町娘と君主という身分違いになる。


…ついしばらく黙ってしまったが、清野の顔に向かって水鉄砲をしたらし返してきて、2人で時間を忘れて水のかけっこをしあって遊んだ。
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