優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「だけど半蔵…私、あの男を落とせる自信がないわ」


「くの一の頂点を行く女が何を抜かす。そなたの任務は上杉謙信を陥落させ、なおかつ桃姫を三河へと………」


「半蔵?」


「面白い話をしているね」


――宿の裏手――


完全に気配を殺し、足音すら失くした謙信がいつの間にか清野の背後に立っていた。


刀を右手に微笑みながら無防備に立っているが…清野は動けない。

静けさ以上に怖いものなどない。


「誰が私を陥落させる、とか…誰が桃姫を三河に攫う、とか?もう一度大きな声で言ってごらん」


「け、謙信様…私…怖うございました!いきなり訳のわからないことを言われて…っ!」


胸に飛び込んできて、建屋に謙信の身体を押し付けると、さめざめとその胸にしなだれかかって訴える。


「私がくの一とか、誰と勘違いしたのでしょうか…!怖かった…!」


胸を押し付け、身体を密着させて女を強調するが、謙信はまるで反応を見せなかった。


「くの一清野、か。半蔵も馬鹿な男だね、私の気配にすら気づかないとは。忍び失格なんじゃないの?」


「…違います、私はくの一などでは…」


「どうしたの、私を落とすんじゃないの?やってみてよ、ほら」


目は完全に冷えていて、耳に息を吹きかけた。


「あ…っ、謙信、様…!」


「私が桃姫以外の女子に溺れることなど絶対に有り得ない。君にはお仕置きをしなければいけないみたいだ」


「謙信、様…!?」


そのまま背中側に清野の両腕を捩じったまま山林へと入って行き、開けた場所で突き飛ばすと恐れ戦く清野に場違いな笑顔を浮かべながらゆっくりと上半身服を脱いだ。


「私を陥落させることができれば君の勝ちで、桃姫を好きにしていい。だけど私を陥落させることができなかったら、私に殺されるかもう二度と姿を見せないか選ばせてあげよう。さあ、行くよ」


――清野はここ数日の謙信を見ていて、何度も立場を忘れそうになっていた。

それほどに魅力的な男だ、真に桃が羨ましいとさえ思っていた。


そんな謙信から今…迫られている。

押し倒され、冷えた目だが、愛されようとしている。


…もうそれだけでよかった。
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