優しい手①~戦国:石田三成~【完】
“よく噛んでゆっくり食べなさい”。


姉たちからそう教えられて育った桃は、とにかく食べるのが遅い。


――三成たちはその時間を利用し、部屋の隅に集合して誰が着替えを手伝うのかを討論していた。


「やっぱり私じゃないかなあ、一番煩悩がないし安心だよ」


「貴公ほど煩悩にまみれている男は居らぬ」


三成に厳しい突っ込みを入れられて、子供のように頬を膨らませた謙信がきちんと正座をして手探りで吸い物が入った碗を手にして息を吹きかけている姿を見て目を細める。


「ちなみに俺は意外と初な一面がある故手など出さぬ。それに目が見えぬ方が意外と気配に敏感になって便利ではあるが」


「貴公が初だと?小十郎の顔を見ろ、歪んでいるぞ。ああ信用できる男は…やはりお前しか居ないか」


――それまで話の輪から外れ、桃の食事風景をうっとり見つめていた幸村に皆の視線が集まり、明らかに耳に聴こえない悲鳴を上げた。


「せ…拙者が姫のお、お着替えのお手伝いを!?」


「お前にしか頼めぬ。やってくれるか?」


謙信も政宗も異議なしという顔をして肩を竦め、渋々承服の三成に詰め寄っては声を押し殺しながら絶叫する。


「三成殿が適任では!?」


「…俺にもできそうにない。お前ならやましいことはせぬはず。嫌と言ってもやってもらうぞ」


有無を言わさず襟首を掴まれると桃の前に引きずり出され、無理矢理座らされた。


「桃、夕餉を食した後幸村が着替えを手伝う。…もし何かされたら大声で叫べ。隣の部屋から駆けつける」


「あはっ、“何かされたら”ってなに?幸村さんなら超安心だよ、よろしくお願いします」


――男としては何やら複雑な心境だが、

すでに幸村の脳内はキャパ容量を大幅に超えて頭から湯気が出そうになっていて、また謙信ががっかりな声を上げながら桃の隣に腰かけた。


「越後に着いたら私が毎日着替えを手伝ってあげるからね。姫、行っておいで」


片膝をついた幸村に恭しく手を取られ、よろめきながら立ち上がると、ちょこちょことゆっくり一回転して皆に手を振った。


「脚引っ張っちゃってごめんね、すぐ治るように頑張ります!」


皆が頬が緩むのを抑えられなかった。
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