優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三成は一度布を外し、桃の目を拭いてやると新たな布で両目を覆ってやり、床に横たえさせた。


「ごめん、泣かせちゃった。今のは忘れてね」


「…忘れるわけないよ。お酒、控えてね?お願いだから」


「うん、姫の目が治るまでは控えるようにするよ。お休み、姫」


消灯して早々、桃は隣の三成の布団に忍び込んだ。


一人で寝るには心細すぎて、そしてつらくて…この男はさらに短い生を終えるのだと思うと、息ができない位苦しくなる。


「…先程の会話、俺にはよくわからなかった。一体どういう意味だ?」


「…謙信さんが後の時代に遺した有名な言葉だったの」


三成に抱きしめてもらうと、我が身に起こったことと三成に今後降りかかるであろう災難を避けるため、言ってはならない助言を口にした。


「三成さん…お願いだから、徳川家康には近付かないで。お願い、絶対に逆らったりしないで…」


「?どういう意味だ?…俺の命に関わることなのか?」


――踏みとどまることができない。

史実通りに全てが動かなければならないのに、三成や謙信と出会い、心を通わせてしまった桃はもう抑えることができないでいる。


「大きな戦が起きちゃうの。三成さんも関わっちゃうの。それで…だから…」


「桃、戦に身を投じるのは我ら武将の誇り。主君のため命を懸けて戦い、その果てに命を落とすのならばそれで本望。だから…その先は話さなくていい。…すまぬ」


――また胸がきゅう、と苦しくなった。


両親が姉たちに言って聞かせ、そして姉たちが桃に言って聞かせた言葉。


『歴史を動かすような人物と深く関わってはいけない』


その約束を破ってしまったようなものだ。


――また泣いてしまいそうになり、必死に唇を噛み締めて胸に抱き着く。


この男にも本来なら妻子が出来て、短い生の中でも幸せな時が訪れるはずなのだ。


…自分は、その幸せを妨害しているのでは?


「桃?」


「…ううん、何でもない。ちょっと落ち着いたから自分の布団に戻るね」


「…今宵は俺と共に眠れ。不安を拭い取ってやる」


優しい手が唇に触れてきた。


この手をいつか離さなければならない。
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