優しい手①~戦国:石田三成~【完】
翌朝また人一倍朝食に時間がかかり、今度は一人で着替えを終えて幸村と一緒に早めに一階へ降りた。


皆はもう宿の前に集合していて、謙信がこの時例の不思議なことをクロにしていた。


――クロの顔を両手で包み、額に額をあてて瞳を閉じる。

そうするとクロも目を閉じて、桃の登場で振り回していた尻尾が下がった。


「今日は頼むよ。君の姫は今目が見えないんだ。暴れたりしたら大変なことになるから、私が一緒に乗るからね」


するとクロが脚を折りたたみ、座り込む。

最強の軍馬は借りてきた猫のような状態になり、桃はその背にすんなりと跨ることができた。


「今日は謙信さんと一緒に走るの?謙信さんの馬はどうするの?」


「私の馬には皆の荷物を括って走らせるよ。大丈夫、言って聞かせたから無人でもちゃんとついて来るからね」


――謙信が頭を下げた件…三成たちは、昨晩その経緯を知らされていた。


謙信が責任を感じるのはわからないでもなかったが、清野が謙信を誘惑しようとしていたことはありありだったので自業自得だったとも言える。


「今日も暑そうだね、姫は昨日危なかったんだからなるべく木陰を走ろう。ということで、私たちは後発でいいよ」


真っ先に幸村が駆けてゆき、しんがりを謙信と桃が務めて越後へと向けて走り出した。


――ペースはやはりどうしても落ちてしまい、また必要以上に気を張ったクロが走りに慎重になって謙信を笑わせた。


「暴れん坊がずいぶん大人しくなっちゃったね。越後入りは明日になりそうだけど、姫の身体の方が大切だから」


「うん、ごめんね謙信さん。昨日も泣いちゃったりして…ごめんね?」


「いや、気にすることはないよ。いつか私は言ったよね、“史実通りに行くかな?”って。死期は変えられないかもしれないけど、姫は私のものになるかもしれない。ぎりぎりまでよく考えてね、帰りたいと言うなら送り出すし、残りたいと言うなら…」


腰に添えられていた手が身体に回って来て引き寄せられた。


「私が必ず姫を幸せにしてみせるから」


「謙信さん…」


独身を通した男なら、誰も傷つけずに自分も幸せになれるだろうか?


――史実と現実の間で桃の心は揺れていた。
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