優しい手①~戦国:石田三成~【完】
完全に体力が回復していない桃の体調を気遣い、一行は頻繁に馬を止めて休憩を取った。


…今日は刺客が襲ってくることがなく、謙信が頭領の半蔵に深手を負わせたことで動きに乱れが生じていることが窺えた。


「桃、水を沢山飲め。また倒れるぞ」


「えー?お水沢山飲むとお手洗いが近くなるからやだもん。見張りしてくれるんならいいよ」


「ば、ば、馬鹿を言うな!いいから飲め!」


竹筒を手渡されて渋々水を飲み、手の甲で汗を拭いながら見えない世界から聞こえる様々な音を、そして気配を感じた。


息づく緑。

全て、呼吸している。


「政宗さんもいつもこんな感じなのかな」


「俺は片目は見える。気配に聡いそこの出家希望の男なら目を閉じていても全て見えているかもしれんがな」


――あれから謙信は桃からぴったりと離れなかった。


今も当たり前のように肩をくっつけて密着し、顔を寄せるクロの鼻面を撫でてやっている。


「謙信さんって確かに音とかに敏感だよね。なんで?いつもなの?」


――早朝薬師から目を見てもらい、上薬を塗った布を両目にあてている桃は謙信がどんな表情をしているのかわからなかった。


「私には神仏の加護があるから危ないことなんて起きないんだよ。それより姫、くっついてると逆に暑くないよね。もっとくっついていい?」


腰に腕を回されて、思わず声を上げてしまうと、ばしっと何かが何かを叩くような音がして、謙信のふてくされた声が響いた。


「三成は厳しいなあ、ちょっと触るくらいいいでしょ?」


「早く出家しろ、煩悩を捨てて念仏三昧の日々を送ってくれ。さすれば越後は我が尾張が平和に統治してやろうぞ」


「こらこら三成、馬鹿を言うな!殿は姫を娶られてこれから奮起して天下統一を目指すのだ。麗しの殿の頭を丸めるなど、あってはならん!」


熱弁する兼続をよそに、桃を抱きかかえてクロに乗せながら謙信が明るい声で笑った。


「姫が私に天下統一をおねだりするのなら、やってもいいかな。あのうつけ者のやり方はちょっと気に食わないしね」


――織田信長。

九死に一生を得た男は、不気味に胎動している。


…徳川家康と共に。
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