優しい手①~戦国:石田三成~【完】
三河を治めているのが、徳川家康。

そこまではわかったが、何故自分をこうも執拗に攫いに来るのか、桃には全く理解できなかった。


「ねえ謙信さんは徳川家康…さんとは仲良しなの?」


「仲良しではないけれど、知ってはいるよ。己の手を汚さず欲しいものを手中に収める天才かな」


謙信から身体を包み込まれるようにして、スピードは出ているはずなのにあまり身体が跳ねずにいたので会話も自然とスムーズになる。


「そっか、だから天下統一を……あっ!………今の、聴こえちゃった…?」


史実を語ってはならない。

そんな簡単なことをまたうっかり忘れてしまい、口走った後に恐る恐る身を捩って謙信を振り返ると片手で頬を撫でられた。


「大丈夫、私は天下に興味はないから。政宗じゃなくて良かったね、私じゃなくてあの子だったら今頃家康を殺しに行ってるよ」


――本当に天下統一に興味がないのだと実感し、それでも言ってはならないことを言ってしまったので、思わずしょげてしまう。


「落ち込むことはないよ。それより姫、クロを誉めてあげて。枯れ枝ひとつ踏まずに注意して走ってこの速さなんだから、誉めてあげるともっと走ってくれるかも」


今は目が見えないので、少し身を乗り出すのも怖かったが…

腕を伸ばしてポンポンと首を叩き、クロが驚かない程度の大きな声で話しかけた。


「クロちゃんありがとね!もうちょっとだから頑張って!」


「ぶるるるるん!」


車のエンジンがかかったような音で鼻を鳴らして奮起し、前を走っていた三成にあっという間に追いついた。


「どうした、やけにやる気だな」


本当の主に笑いかけられてさらに有頂天になったクロの尻尾は高々と振られていて、謙信の笑みを誘う。


「この分だと夜半には着きそうだけど、こちらにも準備があるからやっぱり宿で一泊しよう。姫、段取りは後で兼続が説明するから」


「え?」


「姫、不肖ながらこの兼続めがわかりやすくご説明差し上げますので宿までしばしお待ちを!」


またわからずに首を捻ったが、気遣って走ってくれたおかげで身体は何ともなく、宿まで着く。


「父上」


そこで出迎えたのは…


景勝だった。
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