優しい手①~戦国:石田三成~【完】
正装して部屋に戻ってきた桃を見て、景勝は息を呑んだ。


――相変わらず両目は布で覆われていてわからなかったが、それでも白粉と紅を施された桃は艶やかで可憐で…

思わず食い入るように見つめてしまうと、謙信から苦笑される。


「またそんな瞳をして…。私と争う覚悟なのかい?」


「そ、そのようなことは…!しかし…」


――謙信から贈られた上物の打掛を綺麗に着こなして、長い付け髪をつけ、しずしずと現れた桃に驚いているのは景勝だけではない。


三成や政宗、幸村も思わず近寄りがたい雰囲気を感じてしまい、怖気づいてしまう。


「へ、変かな?…三成さん、どお?」


桃から指名をされて、それまでずっと黙って壁際で腕を組んでいた三成は桃の前に立ってその白い頬に触れた。


「…似合っている。桃、粗相のないようにな。謙信公にはこれから世話になる故」


「うん、わかってるよ。ね、三成さんも一緒にお父さんとお母さんを捜してくれるんだよね?離れたり…しないよね?」


寂しがり、不安がる桃の手を握って安心させるとその場から離れて宿の下へと出た。


そこにはすでに春日山城から来た仰々しい一団が居て、その中でも際立って豪奢な輿があった。


謙信の“正室”として迎え入れられてしまうことにものすごい憤りを感じながらも、今の自分の立場では何も言えず…ただ押し黙る。


「三成殿…よろしいのですか?桃姫は…」


「…拒絶すべきところでは確と拒絶しろ、と教えてある。後は桃が決めることだ。俺には何も口出しする権利はない」


清廉潔白な態度でクロに乗ると、宿から桃が女中から手を取られてしずしずと出て来ると、輿に乗った。


謙信も兼続も正装をして、見違えるほどこぎれいになった二人と目が合うと、謙信は小さな声で…だが確かに三成に届く声で、宣言をする。


「私の領域内に入れば、私は私のしたいようにする。後悔のないよう、行動してほしい。私もそうするし、信念は曲げない」


「…」


あくまで強気の上杉謙信は、春日山城から引いてこられた愛馬に跨ると、先頭に立って越後へと歩を進めた。


「…俺とて、もう後悔はせぬ」


三成の呟きは、謙信に聴こえていた。
< 262 / 671 >

この作品をシェア

pagetop