優しい手①~戦国:石田三成~【完】
なんとか手探りで一人で食べようとする桃を皆が微笑ましく見守っていると…


「殿、女中らが参りました」


「ああ、ちょっと待ってもらって。桃姫が食べ終わってないから」


躾良く育てられたためどうしても良く噛んで食べる癖があるのでやはりペースは遅い。

しばらくすると春日山城で働いている上級の女中たちが現れて、錚々たる面々に慌てて膝を折り、頭を深く下げた。


「隣の部屋で待機してて。こちらの姫を目いっぱい美しく飾ってあげてね。今目が見えないから気を付けてあげて」


「は、はい!」


――一生懸命食べている桃の耳元で兼続が面白そうに笑いながら耳打ちをした。


「殿は城内、そして城下町の女子から熱く信奉されているお方です。殿が女中らから襲われぬようにするのも拙者の務めで…」


「こら兼続、変なこと言わない。あれ、君は今日元気ないね、どうしたの?」


昨晩から黙りっぱなしの政宗は謙信に話しかけられ、咳払いをしてごにょった。


「い、いや俺は…その、な、なんでもない!」


桃がにまにま笑っているのが癪に障り、小十郎の腕を取って無理矢理立たせると部屋から出て行く。


「一風呂浴びてくる!桃姫、俺との約束を違えるなよ!」


「うん、わかった!」


返事が良すぎて逆に政宗の不審を買ったが、ようやく食べ終わると三成から手を取られて立ち上がり、隣の部屋へと移動する。


「じゃあ…頂いた打掛、着させて頂きます」


「ん、綺麗にしてもらっておいで」


――そして桃が去った後、ようやく景勝が口を開いた。


「父上、あの髪の短さでは似合わぬのでは」


「まあ、色々持ってきてもらったから問題ないんじゃないかな。景勝もきっと驚くよ、本当に綺麗になるから」


――兼続の言うとおり、景勝の顔は謙信の顔をやや険しくしたそれなりの美貌の持ち主だが、いかんせん寡黙なので怒っているように感じ、女中らは声をかけることもできない。

その景勝がこうして桃を気にする――

それは謙信にとっては良い傾向と言えて、景勝の肩を叩いた。


「私は今恋の戦の最中。相手はあの三成だ。なかなか手ごわいけれど、私が勝つよ」


無敗の将の言葉。
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