優しい手①~戦国:石田三成~【完】
政宗が渋々桃と同じ輿に乗り込み、仰々しくなった一団は一路越後の春日山城を目指し、出立した。


桃は外の様子が気になっていたのだが、“いつもすぐ傍に居る”と言ってくれた三成の言葉を信じて、着飾られたまま正座し、両親を想っていた。


「三成、私の城ではどこに出入りしても構わないよ。隠すものなどないし、万が一秀吉公に私と会ったことがばれたら、“上杉謙信はとんでもないうつけでした”とでも言っておいて」


「とても戦の天才とは思えぬ発言だが、秀吉様を騙すことはできぬぞ」


「うん、とりあえず天下に興味がない、っていうのが伝わればいいから。私が欲しいのは桃姫だけだしね」


あっけらかんと言いきって馬上で気持ちよさそうに風に吹かれている謙信は飄々としていて、掴みどころがない。


それでも何度も輿を見つめてしまうのは自分と同じで、終始笑みの絶えない美貌には揺るがない自信が瞬いている。


「ほら、城下町が見えて来たよ。すごい人だなあ、兼続、もしかして今日私が帰って来ること、誰かに話しちゃった?」


――街道を通り、春日山城へと通じる大きな城下町には数えきれないほどの人々が大挙して謙信らを待ち構えていた。


問われた兼続が舌を出しながら謙信に馬を寄せて、ぺこりと頭を下げる。


「申し訳ありませぬ、慶次に文を出してしまいました!あ奴の口が最高に軽いことを忘れておりました!」


「よりによって慶次かあ。まあいいけど、景勝、民に少しは笑顔を見せてやるんだよ。怒っているように見られがちなんだから、できる限りでいいからね」


そして城下町に踏み入ると、一斉に人々がひれ伏した。


軍神上杉謙信を、立ったまま迎える者など誰一人として居らず、男集団の中、輿が運ばれてくるのを見た民たちがひそひそと声を交わし合う。


「誰だ?どこかの姫が物見遊山に?」


「まさか…謙信公が奥方をお迎えに?!今まで引く手数多の縁談をお断りになってきた方がとうとう!?」


人々の声はだんだん大きくなり、それは三成や謙信の耳にも届いた。


さざ波のように輿の中の人物が誰であるかを取沙汰されて、とうとう謙信が馬を止めた。


「姫、出ておいで」


馬から降りて、輿に手を差し伸べた。
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