優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「美味しい?」


「うん、おいひい!」


団子を口いっぱいに頬張ったまま、そして謙信に抱っこされたまま桃がそう答えると、桃に団子を譲った男が後ろの団子屋を一度振り返ってまた頭を下げた。


「俺…い、いえ、私はそこのしがない団子屋の店主でございます。姫様にお気に召して頂けて光栄で…」


「じゃあ後で500串ほど城に届けてもらおうか。私や姫も含めて皆で美味しく頂くよ。楽しみにしているから」


にこ、と微笑みかけ、、

そして周囲の女子たちは甘いため息を漏らし、目の見えない桃だけがまだ団子が残っているものだと思って口を開けて待っていた。


「もう無くなっちゃったよ。後は城に帰ってからね。ああ姫、口の端にみたらしのたれが…」


――公衆の面前で、謙信が桃の口端についたたれをぺろっと舐めた。


周囲も驚いたが、一番驚いたのは何を隠そう桃本人で、かあっと頬が熱くなるのを感じて乱暴に口元を手の甲で拭うと、近くに居るであろう三成に助けを求めるように手を伸ばす。


「三成さ…」


「他の男の名など呼んでは駄目だよ。じゃあこうしようか、城について私以外の男の名を呼んだら罰として1回毎に口付けするから。50回を越えたら、夜伽。どう?」


「ど、どうって…!そんなのずるいよ!」


「この越後では私が掟だから。誰も私には逆らえないんだよ」


――べたべたと桃に触りまくり、冗談にしては性質の悪すぎる約束を桃に取り付け、本人は至極満足で再び桃を輿の中に戻す。


「皆に姫をお披露目できて嬉しかったよ」


「あ、あの…」


何か反論しようと口を開いたが、御簾が下がる音がしてがくっと肩を落とすと、政宗がまたも悔しそうに声を上げて膝を叩いている音がした。


「姫、毎夜部屋の前に三成を立たせろ。あの男、本気で襲いにかかってくるぞ。姫の操はこの伊達政宗が頂くことになっているのだ!」


「そ、そんな約束してないもん!それより政宗さん、声おっきい!……あ…1回呼んじゃった…」


謙信以外の男の名を呼ぶと、1回につき1回謙信とキスをしなければならない。


とんでもなく不利な条件を飲まされて、桃は輿の中で真剣に三成の名に変わるあだ名を考えていた。
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