優しい手①~戦国:石田三成~【完】
大きな山1つがまるまる春日山城。

その壮大さ、戦になった時の頑丈さと堅牢な造りに三成は舌を巻いた。


何重にも門があり、それを兵が守り、坂を馬で登りながら油断なく地の利を探る三成に謙信が馬を寄せた。


「よく見ておくといいよ。ただし私の城に攻め込む時は尾張の民の半数以上を一瞬にして失う覚悟をしておいた方がいい。この国を侵す者に私は容赦しないからね」


義に溢れた男だが、その柔和な外見に惑わされてはいけない。

戦の神である毘沙門天を敬い、周囲からはその生まれ変わりだと敬われ、それを本人も否定したことがない。


――だが先ほど見せつけられた光景については苦言を言わねば気が済まず、

景勝が無言で睨んでくる中、謙信の配下に囲まれながらも一向に介さず、三成はその思いを口にした。


「桃の意思なしで夜伽を求めるような真似だけは止めてもらいたい。義の男、上杉謙信ならばこの約束守ってくれるな?」


「貴様、殿に向かってそのような口は許さぬぞ!」


口々に謙信を囲む配下から非難されたが別に痛くも痒くもなく、輿の中の桃に聴こえないようになおいっそう声を抑えて迫った。


「約束してもらいたい。俺には桃を守る義務がある。正室になどさせぬ、ともう一度強く言っておく。…以上だ」


「わかってるよ。でも姫の同意があればいいんでしょ?」


くすくす笑い、とうとう巨大な城の前に着いた時、一人の若い男が駆けてきた。


「父上、ご無事のお帰り、お喜び申し上げます!」


「景虎、元気にしていたようだね。お土産を連れて帰ってきたよ」


「?」


――どうやら謙信はごく一部の者にしか尾張に出向いた理由を話していない様子で、明らかに不遜な態度を取っている見かけない顔の三成を見ると、俄かに警戒して身構えた。


「ああ、お土産はそっちじゃなくて、こっち」


馬から降りて輿に歩み寄った謙信が御簾を上げると…

中から眼帯の若い男が出てきて、その風貌に一気にその場は殺気に溢れた。


「伊達…政宗!?」


「ごめん、お土産はこれでもないんだ。さあ、姫」


――差し伸べた手に、白い手が重なった。
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