優しい手①~戦国:石田三成~【完】
息を呑む面々の中、ただ一人…笑いをこらえている男が居た。


――いち早くその気配に気づいた桃の頬が限界まで膨らんで、指を差してその男を非難した。


「ひどいよミッチーさん!どうせ馬子にも衣装とか思ってるんでしょ!?」


「あ、当たり、だ…!ああ、腹が痛い…!」


ツボに入ったのか、無表情と呼んでいいほどの三成の鉄面皮は真っ赤になり、身体を曲げて声を押し殺し、爆笑している。


――そう、桃と出会った時から今日までずっと、お転婆な桃を見てきた。


綺麗な衣装を着せられてそれこそ京人形のように思える時もあるが、なまじ活発で破天荒な面は隠しきれていない。


「ほんとひどいよ!目が見えるようになったらほっぺつねるからね!」


「やってみろ、そうやすやすとやられる俺ではないぞ」


…その両者の掛け合いは、近しい者にしか持ちえない雰囲気で…り込む余地がない。


「わたくしは仙桃院と申します。謙信の姉で、景勝の母です。お会いしとうございましたよ」


――女性と触れ合うことに飢えている桃は、膝の上で握っていた手に伸びてきた優しい手をがっしりと掴んだ。


若くして景勝を生んだため、まだ三十代で、色気を称えた仙桃院の手は若々しく、桃はそのすべすべの肌を撫でながら満面の笑みで頭を下げる。


「ご迷惑をおかけしないように頑張るので、色々大目に見てやってください!」


「ふふ、面白い姫だこと。謙信、全力でお引き止めするのですよ」


「はい、持ちうる限りの全力で越後に留めてみせましょう」


…桃はその謙信の艶やかな声にどう返したらいいかわからず、口をもごもごさせながら立ち上がると…


「桃、手を。俺が引いてやる」


「桃姫、俺が」


「拙者が大広間へご案内いたします」


「……」


三成、景虎、幸村、そして無言の景勝の手が桃の前にずらりと並んだ。


謙信はそれを面白そうにして壁に寄りかかって見ている。


「えと…」


――桃の手が、全員の手を少しだけ握ってゆく。


そして選んだ手は…


「よろしくお願いします、ミッチーさん!」


「…ミッチーと呼ぶな」


三成の手だった。
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