優しい手①~戦国:石田三成~【完】
大広間とはつまり、上座がある場所だった。


三成に手を引かれてしずしずと入ってきた桃に皆が一様にほう、とため息をついたが、謙信は違う意味で笑い声を上げた。


「あれ?どこに居るかと思ったら・・・もうここに来てたの?」


「あれこれ見回っていたら・・・こいつにとっ捕まったのだ!」


――どこをほっつき歩いていたのか、政宗と小十郎は安田長秀に捕まって、縄で後ろ手を縛られていた。


「かわいそうだから外してやって。全く・・・一国一城の主が何をやってるんだか」


そういいつつ、三成の手からそっと桃の手を受け取ると謙信は上座に移動し・・・桃を隣に座らせた。


「・・・」


三成は何も言わなかったが内心ははらわたが煮え繰り返しそうになっていて、幸村と兼続に肩をたたかれると上座のすぐ脇へと移動した。


「さて、今日は私と姫のために祝ってくれるんだよね?ちゃんと無傷で帰ってきたよ」


盃を手に掲げると、皆が盃を手にして主の無事の帰還を満面の笑みで喜ぶ。

皆が謙信を敬い、愛している。

比類なき無敗の王者を、尊敬して止まない。


「桃姫は甘酒だよ。それでも酔っちゃうんだから少しだけだからね」


「はいっ」


――両目を布で覆っている桃だが、その可憐さは目が見えなくても十分伝わってくる。


謙信が尾張から連れてきたどこかの姫――

もちろん家柄や性格も気になるところだったが、やはり主の正室になる者は見栄えが良くなくてはいけない。


「堅苦しい挨拶はやめておこう。みんな、存分に食べて飲んで笑って、夜を明かそう」


「おーっ!!!」


叫び声が木霊し、桃が一瞬びくっと身体をひきつらせたがすぐにがやがやとうるさくなり、杯の甘酒を一口飲むと一気に身体が熱くなった。


「わ、美味しい・・・」


「酔ったら私が介抱してあげるから。その代わり・・・」


肩を抱かれて思わず謙信に寄りかかってしまい、そして耳元で低くも魅了的な声が響いた。


「私に何をされてもいいのなら、たくさん飲んでもいいよ」


「え・・・っ、こ、これだけにしておきます!」


慌てて否定にかかった桃の顔の赤さは、甘酒だけのせいではなかった。
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