優しい手①~戦国:石田三成~【完】
一気に桃の雰囲気が変わったのが分かった。


桃の隣に座っている謙信には特にその様が如実にわかり…義の精神が三成を追及し、問い質す。


「お園と言ったね。どうして尾張からここに?…どうして夫婦にならなかったのかな?」


“夫婦”という単語を使った途端、袖を握る桃の手が強くなった。


謙信は笑みを称えている。

けれど、その瞳は笑ってなどいない。


「…お園が突然居なくなった。だから…」


「へえ、方々捜したの?」


追及の手を休めない謙信に、三成の頬に汗が浮かぶ。

…とにかく桃に知られてしまった以上、誠実さをもって、お園とどんな関係にあったのかを話さなければならない。


「…いいよ謙信さん。そんなこと、聞きたくないし」


「姫、寵愛とはね、そんなに簡単に捨てられるものではないんだよ。同意を持って別れたわけではなさそうだし…どうなのかな?」


――桃の唇が震えているのが、三成の隣に座っている兼続や幸村、そして真向かいの上座側に座っていた景勝や景虎からも見えた。


お園は皆の視線を一気に浴びてしまい、萎縮しながらも…やはり三成を見ることができずに、蚊の鳴くような声で答える。


「私が…逃げ出したのです。三成様は秀吉様をお支えする重臣。私は…ただの女中。身分が釣り合いません」


「そんな…俺は…必死に捜して…」


いきなり立ち上がって壁伝いに歩き始めた桃に皆が腰を浮かした。


「桃姫、どこに行くの?」


「…ここに居たくないから違うとこに行くの。みんなは居ていいよ、私は一人で…平気だから!」


――平気なわけがない。

今にも泣きそうな顔で、“必至に捜して…”と言葉を詰まらせた三成のことが…


いつもクールな三成をそこまで動かしたお園という女が羨ましくて、その場から早く立ち去りたかった。


だが盲目の身。

上座の段差に躓いてよろけると、とっさに支えてくれた三成の手に…三成の香りがして、その手を振り払った。


「桃…っ」


「触んないで!…大切な人が見つかってよかったね、沢山お話して楽しんでね!」


逃げ出す。

三成の心を占めていた女から。


…三成から。
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