優しい手①~戦国:石田三成~【完】
戦闘の疲れからか、その日は食事も早々に皆が床に入り、逆に桃はぱっちりと目が冴えてしまって起き上がると、行燈の灯りを頼りに部屋を見回した。


…見える。

明るい所ではまだ光が目に沁みるだろうが、盲目を回避することができて嬉しくなり、部屋を出ると隣で寝ているはずの三成を追いかけて中へとそっと入る。


…そもそもお化けが怖くて一人で眠れるはずがないのだ。頼れるのは三成と、そして…


「あれ?桃?」


「え?謙信さん…起きてたの…?」


月光が静かに部屋を照らす中、窓際には謙信が寄りかかって座っていて、その手には…


血の付いた僧服が在った。


「それ…」


「うん、この血は信玄のだよ。はじめて返り血を浴びたんだ。斬った時…信玄は笑ってた」


少し長い前髪が目を隠し、だが口元には微笑が揺れている。

乾いて赤黒く変色した血を優しい手つきで撫でて、それはどこか愛しんでいる風に見えた。


「これはもう着ないし洗わない。これを見る度に私は思い出すんだ。良き理解者を亡くした、ってね」


「でも…信玄さんは敵でしょ?なんで…」


三成を起こさないように謙信の隣に座ると、肩を抱かれて頭を預けてきた。


「敵だったけど、同じ目線に居た唯一の人だったんだ。もう居ない。私が斬ったから」


「謙信さん…」


謙信が複雑な印を結び、祈りを捧げる。

桃もそれに倣って印を結ぼうとするが、見えている方が逆に結びにくくもたついていると膝の上に座らされて、あの時教えてくれたように優しく指を組み合わせて教えてくれた。


「理由はともかく、ここまで来てくれて嬉しかったよ。少しは私のことも気にかけてくれたのかな」


「少しじゃないよ…。三成さんのことも、謙信さんのことも、とっても心配だったの。戻って来なかったらどうしようって、そればっかり考えて…」


ふっと笑う気配がして、顎を取られると少し振り向かされた。

数センチ先に謙信のあたたかい笑みがあって、一度静かに唇が重なった。


「ん…」


「嬉しいよ。君のためならなんでもできるよ本当に。桃…」


舌が絡まる。

音を立てない静かで力強いキスは離れがたく、甘いものだった。
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