優しい手①~戦国:石田三成~【完】
“上杉には夜叉が味方している”


――いつしか兵の間でそんな噂が立っていることを聞きつけた兼続が、馬上で欠伸をしている謙信に耳打ちした。


「殿、ご覧ください」


「うん、みんな見てるね」


先に戻らせた歩兵隊に追いつき、追い越しながら彼らに視線を遣ると、主君である謙信に注目するより皆が桃に注目していた。


「も、変なとこ触んないで!今お尻触ったでしょ!?」


「な、なに!?そなたが落ちそうだったから支えてやったのに、その言いぐさは何だ!」


…馬上で互いに顔を赤くしながらもめている桃と三成…


いや、皆が桃を見つめては頭を下げ、平伏する。


桃は自分が何故そんなに傅かれるのか全くわかっておらず、目を白黒させていたが…


「夜叉、ね。まあ毘沙門天の眷属ではあるけれど、桃のように可愛らしい姿じゃないからそう呼ぶのはやめてほしいなあ」


「殿との一騎打ちの直前、我ら上杉と武田軍の間を閃光のように切り裂いて現れ、長き戦に終止符を打った毘沙門天の使いだと皆が口々に申しております。殿、もはや桃姫は我らになくてはならぬ女子。お早く正室にお迎えくださいませ」


桃を正室にすれば…謙信に俄然やる気が出て天下取りに名を挙げるかもしれない。

桃が天下を望めば必ずや山は動く――


「正室かあ。桃が決めるべき問題だから焦らせないでやってほしいんだ。皆にそう言っておいて」


「はっ。そろそろ城下町へと入ります。桃姫をどうかお傍に」


まだじゃれ合っている三成に馬を寄せて笑顔で手を差し伸べた。


「ちょっと代わってもらおうかな。ずっと我慢してたんだからいいよね?」


「楽しむって…、え、どうするの?」


「ここにおいで」


ぽんぽんと馬の鬣の部分を叩いた謙信。

つまり前に乗れ、ということだ。


「えと…」


「…行って来い」


三成がクロを謙信の馬に寄せて、桃が謙信の手を取って態勢を保ちながらそのまま謙信側に乗り込んだ。


「やっぱり桃はやわらかいなあ。ちょっと触っていい?」


「だ、駄目!」


「ふふ、じゃあ城まで我慢するよ。少し飛ばそうか」


鼓動が早くなる。
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